第34話 『SSR』

034 『SSR』


「この中に、一枚だけSSRのカードが含まれています。それを引けばあなたの勝ちです」

国民的アイドルの鮎川 奏の顔のカナタが棒読みのセリフで微笑みかけてくれる。

手並みだけは、ディーラーの其れである。


しかも、今回は、20枚が場に並べられている。

前回の倍の数だ。


「どれだろうな」俺が手を出すと。

ちらりと、眼をそむける。

前回のあからさまな反応が今回は非常に小さくなっている。

さすがに、SSRカードと言った所か。


だが、それでも、一枚一枚を探っていけば、ほんの少しの反応でも、見えて来るものがある。

自分の左側から3枚目のカードを選ぼうとしたときだけ反応を示さない。

罠でなければ、おそらくこれだ。


この世界には、俺とカナタしかいない。

顔だけは、国民的アイドル。とても美しい。


「これだ」

「ファイナルアンサー?」

だから、それは違う番組だろう。

「ファイナルアンサー!」


「本当に?」

その言い方は、某番組の司会者そのままだった。


「では、召喚せしめよ!」突然、威厳を備えた声になるカナタ。

「来たれ!」


カードが表を向くと、辺りが、一瞬で荒野に変わる。

一体どうした!これこそ、異変だ!


稲妻が走り、轟音をとどろかす。

黒雲が湧きたってくる風景がヤバいぜ!

まさに、終末の世界が始まりそうだ。


「で、SSRなのか」


既に、カナタはいなかった。

空の彼方から、何かが走ってくる。

それは、空を走って此方にしかも高速に、向かってくるではないか。


稲妻がその姿を照らす。

それは、狼あるいは犬のような姿だった。


その狼は2匹だった。

圧倒的な大きさ、まさに牛のごとき大きさだ。

銀色の毛並み、そして、黄金色の眼光が威を払い、突き出た牙が妖しげな光をたたえている。


「汝が、我が子のあるじか」銀色の狼がしゃべった。


「我が子を頼みます」別のもう一匹がそういう。

そういうと、その後ろから、これは普通の大きさの犬のような狼が出てきた。

「汝の名は?」雄の声が聞く。

「ジン」

「ジン、我が子を頼みます」雌の声がいう。

「ジン、くれぐれも頼む」

それは、両親が我が子を預けるためにいう言葉。どうやら両親が我が子を連れてきたのであろうか。

本当は、反対だが仕方ない。という実感がこもった思念の言葉。両親は我が子を預けたくはないのだろう。


「ジン、フェンを頼みます」母狼。

「ジン、頼んだぞ」父狼。


そういうと、2頭は、子を残して、空へと走り去っていった。

フェンは寂しそうに遠吠えする。


とても感動的な風景だ。

そしてその鳴き声からはとても悲しい感情が伝わってくる。


だが、一体これは何なのかという疑問だけはどうしても消せなかった。

おい、SSRカードを引いたんだろ!と。


何で、両親が子供を預けに来るんだよ!

カードに両親がいるのか?

それとも、やがて両親もカードになって俺の手札になってくれるのか?


おい、カナタ説明しろ!


コングラチュレーション!頭の中では、その文字が出てくす玉が割れている。

そうじゃねえ!

またしても、周囲はディーリングルームに戻り、紙吹雪が舞い散る。

狼でフェンって、まさにあれだろう!

俺は一体どうしてしまったのだろう。


まさに、世界は破滅を望んでいるのか!

それとも、別の何かの思惑が!・・・あるのか?


紙吹雪はいつまでも雪のように舞い落ちてくるのであった。

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