第30話 寒い夜
030 寒い夜
彼らが地上に戻れるのかどうかは知らない。
16階層からナイフ一丁で、戻ることは難しいだろう。
だが、他の冒険者が通り掛かれば、運よくいけば助けてくれるかもしれない。
そこは、彼らの悪運、日頃の行いが左右するのかもしれない。
精神汚染度1%が重く心にのしかかる。
事故だった、彼らの卑怯な攻撃さえ無ければ、あのようなことにはならなかった。
視界を奪われ、4対1では、どうしようもない。
しかし、それは自己弁護にしか過ぎない。
ラルクは俺のカードになった。
俺が殺したのだ。
<へへへ、いいんだよ、カードになっただけだ。カードとして生きているんだから。気にするな。ドンドン行こうぜ>
「くそ、門め、消えやがれ」
好き勝手な事をほざいて、門修蔵は出てこなくなった。
奴は精神汚染度を上げさせると、おそらく俺の意識を乗っ取ることができるに違いない。
油断はできない。
「でも、ラルクのカードは少し気になるな」
「ラルク召喚」
魔法陣の中からあらぬ方向に首の曲がった冒険者の恰好をしたラルク、もちろん今までは名前など知らなかったが、が出てきた。
それはラルクだったものであり、蒼い顔をしている。
これは、ラルクがゾンビになったということだ。
<ゾンビですが、自律的に戦闘することは可能です。>
カナタが俺の心を読んで答えてくれる。
「ラルクもレベルが上がるのか」
<経験を積ませることにより上昇します>
<ゾンビを召喚したことにより、スキル『死霊術(ネクロマンス)』を習得しました>
<なお、死霊術を使い続けることにより、精神汚染度は上昇します。推奨いたしません>
「戻れ、ラルク」俺は慌てて叫んだ。
ラルクはカードの中へと帰っていった。
これは、絶対に門の罠だ。
使ってはならない、禁断の技であり、俺を陥れるための罠だ。
「ちょっと、くらい何てことねえよ」門の言葉の幻聴が聞こえたように思われた。
俺は、17階層をサージェントとエンジェル、ヤミガラスを連れて探索していた。
まだ、ティアは、風呂から帰ってこない。
一体何時間、風呂に入るんだよ。
俺は本当は寂しく、怖かった。
とても、怖かったのである。
強くなって、粋がって、誤って人を殺してしまった。
ティアの声が聞きたかったのだ。
「ギギ」
「ファー」
心配したのか、サージェントとエンジェルが声をかけてくれる。
「おお、ありがとう」
「ギギ」
「ファー」
赤い目は未だに怖いけど案外いいやつらなのかもしれない。仲間意識は持っている。そう信じたい。
17階層のセーフティーゾーンを発見して、そこで毛布にくるまれて、俺は眠った。
とてもとても、心細い眠りだった。
モンスターは何故か、セーフティーゾーンには言ってこない。
しかし、カードの彼らは、簡単に入ってしまった。セーフティーゾーンに。
だが、冒険者間であれば、セーフティーゾーン内での戦闘は可能だ。
ここの迷宮のモンスターが入ってこないだけなのだ。
本当の怪物はモンスターではなく、人間なのかもしれない。
「寒い、さみしい」俺は一人涙を流した。
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