第28話 飯綱落とし

028 飯綱落とし


痛む眼をこすりながら、左手で辺りを探る。

その時、その手に冒険者の体が触れる。


「フン」一瞬で、その男に抱き着き、「飯綱落とし」。

それは、本来の飯綱落としなどではなく、単なるジャーマンスープレックスホールドである。

手加減したつもりだったが、明らかに不穏な音が響き渡る。グシャリ。


なにかが、顔に飛び散った様に感じたが、それどころではない。そこから飛びのく。

腹筋だけで、トンボを切る。まさに、肉体は強靱な忍者の如き動きを可能にする。


「てめえ!」

「おい、ラルク」

「そんな」


三者が喚いている。俺の眼からは、涙があふれ、どうにか、少し視野が戻る。

「サージェント、エンジェル、ヤミガラス来い」

召喚陣から、3体の魔物が現れる。

「ヤミガラス、暗闇」

「カア」

ヤミガラスが暗闇の魔法を撃ち込む。


「うわ、目が見えない」

「助けてくれ」

「セーフティーゾーンだ」


<サージェント、エンジェル捕らえよ。>

心の中で命じれば通じる。

サージェントは素手で二人を殴り倒せば、エンジェルは持っているロッドでもう一人殴り昏倒させる。


キラキラン

<モンスター、LV16ラルクを獲得しました>

何ともぞっとする声がこだました。そのように俺には聞こえた。

<モンスター、ラルクを獲得したことにより、精神汚染度が1%上昇しました>

さらにぞっとする内容が流れる。冷や汗が流れる。


<ヒヒヒ、いいぞいいぞ、そうなんだよ、カードを集めようぜ、友よ>それは、門修蔵の声だった。その時だけ、そこから声が這い上がってきたのだ。


<経験値数が達成されたことにより、カードプレイヤーレベルが3に上昇しました。

カードプレイヤーレベル3を取得したことにより、自分の装備アイテムなどをカード化することが可能になりました。>


カナタの声がなにかを言っているが、しばらく俺は放心状態だった。

の精神は人を殺すことに強い抵抗感を持っていたのだ。

「何ということを」

しかし、やらなければ、やられていた。何もおかしいことはしていない。

ここに、死体を放置しておけば、すぐに迷宮に吸収される。

証拠は残らない。ジンは冷静に言い放った。


任としては、調子に乗った結果がこのような事故を招いてしまったという自責の念が強かった。


どうしたらいいんだ。

そんな時、横にいたサージェントが言い放つ。

「ギギ、これウマソウ、タベテいいか?」

「ダメだ、こんなもの食うなんて!」

それは、捕らえた三人である。

ラルクはカードになったせいだろうか、死体がない。

ゲ!ラルクの死体がない!

まさに、ラルクはカードの中で、首の折れた冒険者の図柄と化していたのだった。


「ファー」なんとエンジェルまで不満そうな声を上げる。

まさか、エンジェルも人間食なのか!やめろ、やめてくれ!


「ダメだ、ダメだ、こいつらは食い物じゃない」

「殺す、プレイヤーオソウ、コロス」


「オレ、コイツラマルカジリ」ギギ。サージェントの眼は赤く光っている。

「ファファー」こいつらが、『エンジェルのロッド』を持っているかもしれない。とエンジェルが言っているが、明らかに言いがかりだ、こいつらがそんなものを持っている筈がない。そもそも、ロッドは魔法使い系の職業がもっているものだ。この男達にそんな職業はない。


エンジェルの眼も赤く妖しく光っていた。

彼らにとっては、俺以外は、敵性生物なのだろうか。

それとも、俺に害を成そうとしたためにこのような態度をとるのか。


その態度を見て初めて、俺の心に平静がやっと戻ってきた。

殺すことは簡単だ、しかし、人食いモンスターを使う気力は俺にはない。

「みんな、ありがとう、しかしここは我慢してくれ」

俺はようやくその言葉を言えた。



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