第24話 黒龍の秘密(非開示)

024 黒龍の秘密(非開示)


俺は、安宿に戻ってきた。

危なかった。アンジェラがあんなこというから。俺は思わず勘違いしそうになった。

そして、それよりも周りの冒険者達に殺される未来しか見えなかった。


やっとの事で宿まで走って逃げてきたのだ。

安宿イコール中心部から遠いというのは当然でかなりの距離があるが、俺は長駆しても息一つ乱れていなかった。これこそが、物理的な力なのであった。


「おお、遅かったではないか」そこには、綺麗なベッドの上に、黒目黒髪の美少女が黒いワンピース姿でくつろいでいる。


「ええと、カードに戻した筈」

「おぬし、儂を誰だと思うておるのじゃ」すでに、自分で理外の生物であると表明している。

「ティア様です」

「そうじゃ、わかっておるではないか」

「何をしておられるのですか」

「うむ、暇だったのじゃ」

「ベッドが妙に綺麗なように見えますが」

「馬鹿者、あのような汚いベッドに儂が寝られる訳がなかろう」

「それで」

「勿論、捨てたわ、それにしても儂を迎えるのに、何とも汚い宿舎ではないか」

「左様でございますか」

「左様じゃ、すぐに何とか致すのじゃ」

「しかし、お金が」

「馬鹿者め、そのようなものは、稼げば問題ないのじゃ、明日は速攻、20階層を攻略する。その金で、綺麗な宿に変わるのじゃぞ、良いな」聞く耳持たぬといわんばかりである。

しかし、確かに彼女のように美しい幼女には、不釣り合いであるのは間違いない。

「ははあ」またしても、平伏してしまった。

自分がドローしたカードに負ける俺。

現実から逃避しそうになる。

『逃げちゃだめだ』と心に唱える。きっとあのアニメの少年は逃げた方がよかったのではないか。精神を破壊されながら世界を救った少年を思い出す。


「ところで、湯あみをしたいのじゃが、風呂場は何処じゃ?」

「ありません」

「何じゃと。今おぬし、儂の裸を見るチャンスと思ったであろう」

「そのようなことは決して」

「うむ、まあ良いわ。儂はちと湯あみをしてくる故、おぬしは、少し待っておれ」

「え」


すると、ちびっこティア様は消えた。

突如、空に掻き消えたのである。

「何!」

「カナタ!」

<はい、何でしょうか>

「あの黒龍幼体って何?」

<お答えします、黒龍の幼体になります>

「いや、そうじゃなくてだな、何でカードから勝手に出てこれるんだときいているのだが」

<非開示情報になります>

「あれは、生物なんだろう?」

<非開示情報になります>

「親がいるっていってたんだけど」

<非開示情報になります>


<あまり細かいことに気を使われると・・・ますよ>

「細かい事じゃねえだろ!」

<非開示情報の開示請求は上級庁へお願いします>

「上級庁って何?」

<申し訳ございません、現在大変込み合っています。しばらくお待ちになるか、時間がたってからもう一度おかけ直し下さい>

「上級庁って何?」

<申し訳ございません、現在大変込み合っています。しばらくお待ちになるか、時間がたってからもう一度おかけ直し下さい>


どこかの政府でも、情報開示請求では、のり弁と呼ばれるくらい真っ黒になった文書が出てきたが、これが国民に仕える公務員の姿なのかとも思う。

勿論、カナデさんは、公務員ではない。


「だあ~!」

俺は、絶叫した。

すべては闇の中、しかし、『知らぬが仏』という言葉も世の中にはあるのだ。

そう、知ることが幸せだと誰が言いきれようか。

知ってしまうときっと、・・・ヒヒヒ。


おい、なんの話だ。

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