第12話 ドロー

012 ドロー


局面打開のために、今こそドローすべきだ。

精神汚染値が15%になるみたいだが。


15%ならまだ大したことはない。

<そうだぜ、たったの15%だしな、何も変わらねえよ>


<お前ほどのプレイヤーなら、SRが強力なのは知ってるだろ>

そりゃあ、そうだろ。


<男なら絶対行くべき所だ、お前のターンだからな>

「そう、俺のターンだ」

しかし、何かが引っかかっていた。

お前のターン?お前のターンがリフレインしている。

本当に俺のターンなのか?疑惑が渦巻いていく。


「わかった。じゃあ、お前の力でレアを頼む」汚染値5%のコースだ。

<ええ?何言っちゃってんの、このSRチャンスは期間限定のチャンスなんだぜ、今行かないと間に合わないんだぞ、オペレーターを増員してる時間は30分なんだぜ>


「いや、とにかくRコースで」

<男だろ、こんなところで、10階層のボス前で躊躇してる場合じゃねえだろ。お前は英雄になれる男なんだぞ、SRがあればそれが可能なんだぞ、女にもてたくないのか!奴らを見返したくないのか>なぜかその声は、やたらと煽ってくる。


「くっ!」その言葉は確かに心にしみる。

そう、見返したい、奴らを!俺を馬鹿にしたやつらすべてを!


しかし、此処で、俺は悟ったのだ。

「因みに、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか」

<え?>


不思議なものだが、明らかに詐欺師がしゃべっているようにしか聞こえなくなるものだ。

名乗りもせず煽るだけ煽る、俺とお前になんか関係があるのか。

そもそも、名も知らぬ何者かが、SRを引かせるなんてできるのか事か?


「名前も知らないとは恩人に申し訳ない。私を助けてくれるのでしょう?」

<そうだよ、そうなんだよ>

「だから名前を言えっていってるだろうが!」


<さ、佐藤だ>

「嘘をつくな!門 修蔵」

<え?>


そこにははっきりと書かれている。スキル『カードコレクターマニア』の備考欄。事件により自殺した門 修蔵による呪いでできたスキルと。


<へっ!ばれたか。そうだ、俺が門 修蔵だ>

「因みに15%の精神汚染と引き換えに、SRを引ける確率は何%だ」

<ははは、お前なかなか顔ににあわず頭いいじゃねえか>


「黙れ、余計な一言はいらん」

<ちっ!10%だよ、上手くいけば10連ガチャさせて一気に行く作戦だったのによ>

「精神汚染が進むとどうなる」

<へへ、それは進んでみてからのお楽しみというやつだ!>


「カナタ、こいつを除去できないのか」

<現状では不可能です。何らかの原因により除去できません>と無機質に答えが帰ってくる。


くそ、こいつら!


<へへ、じゃあ、またな。いつでも呼んでくれよ。やっぱりSR十連必要だろ、楽しみにしてるからよ。>

脳内の門の声が消えていく。


何とか、こいつを除去しないとヤバいな。そう思うのだが、今の俺には何とも仕方がない。

おそらく精神汚染値が上昇すると、門の喜ぶ状態になるに違いないのは確定だ。


「ええと、何しようとしてたんだっけ?」

なかなかに濃い~奴の所為で、何をしようとしていたのか、見失ってしまった。


俺は、迷宮を後にした。

こんな不安定な場所で、ドローする必要がないことに気づいたのだ。


そもそも、ここは迷宮、生と死をかける賭場だ。掛け金は自分の命。

得るものは、金でしかない。

しかし、人々は今日も己の命を賭ける。


だがそれも仕方あるまい、この世界の命は木の葉よりも軽い。

どこかの世界のように、『命は地球よりも重い』なんてことはないのだ。

もし仮に、命が地球よりも重い場合は、地球はその重さに耐えきれずに砕け散るだろう。

それが、物理の法則ではなかったか。



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