第2話 悪夢

002 悪夢


ジンは何回かのレベルアップを繰り返したが、ほとんど能力がアップしたという感触が得られなかった。

そうなると、迷宮の深い階にも挑むことができない。

すると、強いモンスターを狩ることができないので、レベルアップ自体ができないというジレンマに陥ることになる。


周りの同僚は順々に階層を深くしていくが、自分はそれができない。

こうして、ジンはグループからはずされることになる。

一人になればなおさら、経験値を得ることが難しいことになる。一人だと浅い階層でしか活動できないのからある。


悪循環、負のスパイラルをいつまでも繰り返すことになるのである。


そうして、一年また一年と強くも成らず年齢だけを重ねることになってしまったのだ。


ジンは今、メルキア大迷宮1階のスライムスイーパー、ゴブリンスレイヤーと呼ばれ、はっきり言って馬鹿にされているのである。


「くそ!」あんな若造に!思っていても言えない。

言えば喧嘩になり、負ける。レベルだけはまだ勝っているかもしれないが。

ジンは本当に弱かった。そして味方してくれる人間はほとんどいなかった。

レベルアップの基礎能力アップがないと、本当にただの人と何らかわりはないのだ。


嘗て助けてくれる人や味方もいたのだが、ほとんどが引退したか、別の町のギルドの職員として頑張っていたりする。彼は、孤独だった。ほぼ孤立無援の状態だった。


「何で俺はこんなに弱いんだ」各種パラメーターは見えないが、明らかにほとんど成長していなかった。

そして、冒険者のほとんどが経験を積んでいく中で得ることができるものがスキルである。様々なものがある。冒険者をやっていれば嫌でも剣術などのスキルが身についていく。

スキルが身に着けば、今まで難しかったことも難無くできるようになる。

そういう、世界なのである。

強くなるとは、レベルを上げて基礎能力をあげ、スキルを手に入れて、それを使うことでさらに強くなるということなのだ。

勿論、スキルにも色々あり、生産系のスキルを身につけても強くはならないが、より優れたものを今までよりも簡単に作り上げることができる。

ものづくりの世界で強くなるといえるのかもしれない。そういう、無慈悲にも融通が利かない絶対法則の世界であった。


ジンにはスキルも存在しなかったのである。

訓練も人一倍したのにもかかわらず。

悪夢を見ているようだ。

そうこれは悪夢だ。まさに、悪夢のような現実がそこに高い壁のように存在していた。脱出不能の牢獄のように。


涙をこらえ、歯を食いしばりジンは立ち上がった。

なんとかして強くなる。そのためには、1階層じゃダメだ!

ジンは、2階層へと侵入した。

それほど広くもない1階層、2階層への階段など10年以上前から知っている。

昔は、5階層くらいまでは潜った事もあった。

そう、仲間がいたころは。


1階層も2階層もそう変わらない。

レベルアップした冒険者なら普通にやっていける。

レベル10以上もあるジンが恐れる必要などない。

スライムが2匹出るとか、レベル1だったゴブリンがレベル3になっている程度の差である。

やれる、やってやる!

若い冒険者に煽られて、深酒して、悪酔いした結果だった。

通常の冒険者ならそれでも何の危険もない程度の差にしかならない。


そう普通の冒険者なら。


レベル5のゴブリンが現れた。

それは、ジンにとっては悪夢としかいいようのない出現だった。

レベル2のゴブリンを2匹も従えて。


その時、己の無謀が失敗を招いたことに冷や汗が噴き出る。

多くの冒険者が死ぬ理由、無謀、無茶、おごり。冷静に危機管理を行わない冒険者などすぐに棺桶に行くことになる。

しかし、迷宮にそれは必要ないのである。

死んだ冒険者は迷宮に飲み込まれるという。

迷宮生物説。

迷宮が生物だと言い張る一派は、主にこの理由挙げる。

本当に生物なのかどうかは不明だが、死体はやがて飲み込まれて消える。

死体が必要な場合は、持ち帰る必要がある。

また、装備もともに消え失せる。

そういう物が、迷宮の宝箱から出現するときがあることも、事実である。

恐らく消化しきれないので吐き出しているのであろう。(ほんまか?)


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