カードの王 『万年鉄級冒険者は、暗闇で嗤う』
九十九@月光の提督・完結
第1章 迷宮編
第1話 鉄級冒険者
001 鉄級冒険者
メルキア、国境近くのこの町は昔から有名である。
この町には、世界でも有名なメルキア大迷宮が存在する。
多くの冒険者が一攫千金を目指して、この町を訪れる。
しかし、成功できるものはほんの一握りのみである。
メルキア大迷宮、この迷宮はそう呼ばれている。
迷宮の名前が街の名前になったのである。
今日も多くの冒険者が迷宮に潜り、ある者は獲物を得て、ある者は命を落とす。
それが、迷宮都市の毎日の風景だ。
「だーめだ、ダメだ」
「危うく死ぬところだったじゃないか」
冒険者のパーティーが酒場でだみ声を上げる。
そんな日常の風景の端の方に、その男はいた。
ジン、彼の名前である。
彼は今年で29歳、人生50年程度のこの世界では、もうすでに半生を終えている。
彼の年くらいまで冒険者をやっていれば、銀級冒険者程度にはなれる。生きていればのはなしであるが。
もちろん、簡単になれる訳ではない。
彼の年くらいまで、冒険者をするものは其れこそ、高ランクの冒険者ぐらいなのである。
皆、成功しない場合は命を落とすか、限界を感じて辞めるためである。
一瞬の油断が命を落とす。それこそが迷宮の醍醐味といえるからだ。
しかし、彼はまだ鉄級冒険者である。
鉄級冒険者とは、通常新米が終わったらなれるクラスである。
彼自身も新米期間(木級冒険者)を終えて、鉄級になったのだ。
だが、彼の場合はそこから一切昇級なしで、鉄級のままなのだ。
そう、彼も昔は若かった。そしてこの世界での成人年齢は16歳なのだが、その年彼は、木級冒険者として登録し、苦労して、18歳で鉄級冒険者に晴れて昇級したのだ。
それから、10年の歳月が過ぎた、同じころに冒険者を志した者たちのうち、何人かは、金級以上の冒険者になり、多くの者は引退した。そしてさらに多くの人間が死んだ。
そういう意味でいえば、生きているだけまだましなのかもしれない。
本人さえ納得できればそれでいいのかもしれない。
だが彼はそれを納得している訳でもなく、不甲斐ないと自ら感じていたのだ。
もっと俺はできるはずだ!と。
「おおっと、万年鉄級冒険者のジン先輩じゃないですか」自分より若い冒険者が声をかけてくる。(もう自分より若い冒険者しかいないのだ)
「ジン先輩、俺、銅級冒険者に昇級しましたよ」
「ばか、そんな先輩が気にしていることを言うな」
「せめて、今日もスライムは狩れましたかとか聞けよ」
「ゴブリンスレイヤーのジン先輩」
若い男たちのグループがからかいに来る。
馬鹿にしているのだ。
初めのうちは、レベルも上がったのだ。
普通の冒険者の場合は、レベルとともに、見えはしないが、パラメータも上がるのだ。
だから、下の階層にいける。(メルキア迷宮の場合はさらに深く潜ることになるため)
しかし、ジンの場合、レベルは上がったのだが、パラメータはほとんど上がっていない様だった。
レベル1とレベル5では、体感で違いを実感できるほどの差を感じることができるという。
医者にも、教会の神父にも診てもらったが、何処にも異常はないという。
個人差の問題ではないかというばかりだった。
つまり簡単にいうとお前にはこの仕事は向いていないと言われたも同然だった。
だが、ジンは思う、俺はもっとできるはずだ。ここで終わる俺じゃないと。
なにをそんなにこだわっているのだろう。しかし、それでも辞める決意が起こらない。宝くじのようにいつか当たるのではないか。そういう考えが頭の端にあるのかもしれない。だがそういう人間が、当たりくじを引くことは決してないのだ。
「ほら、ジン先輩が深い思考に入られたぞ、空想の中では無双しているんだろうな」
まさしく、無双する姿をジンは想い描いていたのである。
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