2話 夢と現実

2話 夢と現実

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 いくら待っても神様は帰って来なかった。


 わたしの気のせいなんかじゃなかったみたい。

 出来ればそうであって欲しかったけど。

 神様は、もう居ないんだ……


 あの日以来、部屋からほとんど出れていない。

 トイレとお風呂には行くけど、それだけ。

 家族ともほとんどまともに会ってない。


 お母さんは心配してくれているみたいだけど、わたしのことを無理に外に出そうって気はないらしい。

 部屋から出たがらないわたしのためにご飯を持って来てくれて、わたしがオーディション受けたいって言って受けたのに「ちゃんと考えなかったお母さんも悪いのよ」って逆に謝られてしまった。


 惨めで、悲しい気持ちになって……それでも部屋から出ようって思えなかった。


 何度かさくらちゃんが家に来てくれたりとか、電話をくれたりしたみたい。

 お母さんがその話をするたびに、今はちょっとって避け続けていた。

 一方的に避けてるわたしにせっかく優しくしてくれてるのに。


 わたし、何やってるんだろう。

 学校に行かず、部屋に引きこもって。

 お母さんやさくらちゃんの好意を無碍にして。


 ……わたし、何がしたいんだっけ?


 物心ついた時にはアイドルになりたかった。

 アイドルになって、それだけじゃなくてその中で一番になりたかった。

 特にキッカケとかはなかったと思う。


 神様もそうしろって言ってくれたし……


 でもアイドルになんてなれなくて、

 神様にも見放されて、

 友達のことを自分から拒否して、


 そっか、全部無くなっちゃったんだ。

 大切だったもの、わたしの全てが。


 神様も、

 友達も、

 夢も、


 全て……


 わたしこれからどうやって生きていくんだろう?

 そもそも、何も無いのに生きていく意味ってあるのかな?


 これから生きていく理由も、これまで生きてきて得たものも、全てなくなったのに。

 わたしが生きてて何になるっていうんだろう。


 誰も助けてくれない。

 背中を押してくれる神様はもういない。

 わたしは、1人だ。


 いっそのこと……


 そうすれば神様のいる場所に行けるのかな?

 それは烏滸がましいか、でもまた次産まれる時も神様と一緒にいられるのかな?


 それなら、そうなれるなら……


 それはちょっと都合良く考えすぎかもしれない。

 わたしはそんな特別じゃない。

 次も神様が選んでくれる保証なんてどこにもない。


 でも、この世界を生きる理由はない……よね?


「……さようなら」


 わたしはベットに寝転がり、目を瞑り、呼吸をやめた。


 苦しい。

 でもそれはこれから先の人生を生きてても同じことだから、だから苦しみは理由にならない。

 きっと、この一瞬の苦しみよりも大変な事がいっぱいある、そう分かっているのだから。


 体がふわふわとした妙な感覚を覚える。

 ベットに寝転がっているはずなのに、どこまでも落ちていっているようなそんな不思議な感覚。

 これが、死ぬって感覚なのかな?


 スカイダイビングとかバンジージャンプってきっとこんな感じなんだろうなぁ。

 そんなどうでもいいことを最後に考えて、わたしの人生は……


「おねぇちゃん! いつまでそうしてる気なの!?」


 痛っ!


 突然頬を叩かれ、その弾みに呼吸をしてしまった。

 「はぁ、はぁ、」と、わたしの体は死にたく無いらしい。

 呼吸をしないという強い意志が途切れた隙に目一杯酸素を取り込む魂胆のようだ。


 結果、びっくりして過呼吸になってしまった人みたいになった。

 かっこ悪い。

 ……もうそんなことも関係ないか。


「ひまわり?」


 わたしを叩いたの妹のひまわりだった。

 突然部屋に入ってきて、寝転がっているわたしに怒鳴って頬を思いっきり叩いたようだ。


 こういうイタズラをするヤンチャな子じゃなくて、もっと大人しいお淑やかな子だと思ってたんだけど……

 何か急ぎのようでもあったのかな?

 わたしが寝てると思って急いで起こしたとかだろうか。

 小学校の低学年ってそういうものだよね、こういうこともある。


 そう勝手に納得して改めて見たひまわりは、泣いていた。

 いっぱいに涙を溜めて、声を我慢して、それでも涙は溢れていた。


「おねぇちゃんはかっこよくて、いっつもクールで、こんなのおねぇちゃんじゃないよ! 一回オーディション落ちたから何? もう一回受ければいいじゃん。なんでそんなふうに……」


「ひまわり……ごめん」


 わたし、そんなふうに思われていたんだ。

 そっか……


 ひまわりにどう思われてるかって、今まで気にしたことなかったかも知れない。

 小さな頃はいっつも後ろを付いて歩いてて。

 いつの間にか、多分わたしが小学校に入った辺り、そこからわたしの視界にひまわりが入ることはほとんどなくなった。


 ……妹と目を合わせて話すのは久しぶりかも知れない。


 わたしは、さくらちゃんに注意されても結局何も変わってなかったってことか。

 世界の中心はわたし。

 わたしの視界に映るのは、わたしが見たいと思っている人だけだった。


 なんて酷い人間だろう。

 なんてダメな人間だろう。

 そんなわたしをこんなにも気にかけてくれる人がいて、わたしはなんて幸せなのだろう。


 わたしが生きる理由?

 わたしには何もない?


 そんなこと、ない。

 わたしには妹が、お母さんが、家族がいる。


 勝手に部屋に引きこもったわたしに優しくしてくれるお母さん、

 情けないおねぇちゃんを引っ叩いて目を覚まさせてくれた妹、


 わたしがここで死んだら?


 きっと悲しむ、それに迷惑もかかる。

 お母さんはもっと自分を責めることになるかもしれない。

 そんなことをしたいの?

 そんな訳ない!


「……本当にごめん、ひまわり」


「おねぇちゃん、明日は学校行こ。わたしと一緒に」


 情けないおねぇちゃんだ。

 そんなわたしに笑顔で手を差し伸べてくれる、可愛い妹だ。

 ひまわりのためなら、もう少し頑張れる気がするんだ。


 わたしのためじゃなくて、妹やお母さん家族のために。

 わたしの夢は叶わないものになっちゃって、神様もいなくなっちゃったけど、それだけが全てじゃ無いんだってひまわりが教えてくれたから。


 それに、さくらちゃんに会うのはちょっと気まずいけど、でもきっと昔みたいに怒ってその後は手を差し伸べてくれるよね?

 また友達に、戻ってくれるよね?


 そしたら……


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 ひまわりと久しぶりにちゃんと話してから一夜明けて、今日は久しぶりに学校に行くことになった。

 昨日、そう約束したから。

 ただ、長い間学校を休んだのなんて初めてで、朝から緊張してちょっと憂鬱。


「おねぇちゃん、起きた?」


「……」


 やっぱり、明日からとかだめかな?

 だめだろうなぁ。

 昨日話して知ったんだけど、ひまわりって結構頑固。

 一度決めたものはなかなか曲げない、しっかり者さんだ。


 ……おねぇちゃんなのに、そんなことすら知らなかったなんて。

 本当に酷い姉だよね。


「おねぇちゃん!?」


「ごめんって、ひまわり。起きたよ」


「……今、学校行きたくないとか考えなかった?」


「ぎくっ、なんでそれを」


「今の怠け者おねぇちゃんの考えることなんて、わたしはすべてお見通しなのです!」


 そのまま妹に押されて結局学校に行くことになった。

 きっとひまわりは、放っておいたらわたしがずっとこのままだと思っているのだろう。

 あながち否定できない……


 でも、今日はちゃんと行くから。

 ……恥ずかしいことに、妹に手を引かれてだけど。

 あこがれのおねぇちゃんに戻れるよう頑張るから、今だけ頼ってもいいよね?


「お、おはよう」


 恐る恐る教室に入ると、みんな笑顔で迎えてくれた。

 先生にちょっと小言を言われたけど、でも先生も「来てくれて良かった」って言ってくれて……

 行くまで少し憂鬱だったけど、なんだそんなためらう必要なかったじゃん。


 授業もしばらく聞いてなかったけど大丈夫そうだった。

 遅れてついていけなくなったらどうしようなんて思ってたけど、みんながプリントくれたりノート見せてくれたし。

 後はさっと教科書を読めば結構着いていけた。


 頭が良いっていうのは思い込みじゃなかったみたい。


 ……


 ただ、久しぶりに来た学校にさくらちゃんはいなかった。

 お仕事なんだって。

 さくらちゃん、オーディションに受かった後あっという間にデビューしてテレビでも引っ張りだこなんだとか。


 わたしが憧れていた、理想の姿。

 さくらちゃんはいつの間にかそうなっていた。


 今ならわかる。

 あの時落ち込んでいた子、あれはきっとさくらちゃんと一緒に受けてた子だと思う。

 神様がわたしの体を動かすのと同じぐらい。

 うんん、神様がわたしというハンデを背負ってたせいでオーディションに落ちたってことを踏まえると総合力ではそれ以上のレベルってことか。

 それぐらいさくらちゃんは凄くて特別で天才だった。


 対等、それどころかすこし下に見ていたのかも知れない。

 だからさくらちゃんだけ受かってびっくりしたんだ。

 対等だと思ってたら、自分だけ落ちてたとしてもそんなにびっくりしないもんね。


 遠い世界の人になっちゃったなぁ。

 そもそも、わたしにはさくらちゃんと友達でいる資格なんてなかったんだ。


 テレビ……


 家に帰って久しぶりにテレビを見た。

 チャンネルを回すまでもなく、普段見ている人気番組に彼女は出演していた。


『アイドルになったきっかけとかってあったりするの? やっぱり事務所の先輩に憧れて?』


『友達に"一緒にオーディション受けよう"って誘われて付き添いで受けたら私だけ受かっちゃって……』


 プツリ


 見たくなかった。

 既に分かってるんだ。

 対等なんかじゃない、友達なんかじゃないって。


 わたしは、さくらちゃんにふさわしくない。


 でも、さくらちゃんはやさしいから……

 だから友達だって言ってくれてる。

 忙しいのに電話もくれて、それどころか会いにきてくれた。

 わたしはそれを全部無視した。


 見ていると余計にわたしとさくらちゃんの差を思い知って、

 わたしがただ迷惑をかけているって分かっているから、

 神様もきっとわたしがさくらちゃんみたいだったら、


 ただただ苦しい……


 でも、もう良いんだ。

 それはもう捨てるって決めたから。

 わたしは誰かのために生きるんだって。


 アイドル、わたしの夢だった。

 その世界にさくらちゃんがいま立ってる。

 わたしが諦めた煌びやかな世界に……


「さようなら。がんばってね、さくらちゃん……」


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