1話 運命に見放された少女

1話 運命に見放された少女

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 わたしは、物心ついた時からアイドルになりたかった。


 誰にでもなれる存在じゃない。

 でも、わたしは天才だから。

 みんなそう褒めてくれるから、きっとそうなのだと思う。


 勉強しなくてもテストはいっつも高得点だったし、かけっこは誰よりも早くゴール出来たし、歌も踊りも誰かに負けたと感じたことなんてなかった。


 将来はアイドルになる。

 そしてアイドルでも一番になる。


 それがわたしの夢だった……


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「あ、これって……」


 とあるアイドルプロダクションのオーディション案内の貼り紙だった。


 ここって、昨日テレビに出てたアイドルも所属してるとっても大きいとこだよね?

 わたしもあんなふうに……

 いつかアイドルになりたいとは思ってたけど、まだ早いかな?


 でも……どうしよう。


『受ける』


 神様!!


 わたしは昔から神様の声が聞こえる。

 本当に神様かどうかはわからないけど、わたしは神様だって思うことにしている。

 こんなふうにどうしようかなって悩んだ時、毎回神様はわたしの背中を押してくれるの。

 毎回簡単な単語しか話してくれないし、会話とかも出来たことはないけど。

 でも、とっても大切な存在。


 神様は私の進むべき道を教えてくれるんだ。

 こうするのが一番いい、君はそういう運命なんだって。


 神様の言葉を無視しようと思ったことなんて一度もない。

 生まれた時からそこに『いる』のが自然だったから。

 別に強制されているような感覚はないから無視しようと思えば出来るのかも知れないけど、いつもそれで上手くいってたし神様が示してくれるものは私がそうしたいと思ってたけど選べずに悩んでいた選択肢だったから。


 神様のことを何度かお母さんや周りの大人に話してみたことがある。

 でも、誰も信じてくれなかった。

 幼い頃特有の何かだって言ってた。

 昔は「何で信じてくれないのー!」ってムキになってたけど、今なら何となく理解は出来る。


 神様が言うのならこのオーディション受けてみようかな。

 物事にはタイミングってものがあるらしいけど、きっとそれが今なんだと思う。

 お母さん許してくれるかな?


「オーディション?」


「うん、これなんだけど……」


「いいわよ」


「え?」


 自分でもびっくりするぐらい簡単に許可を出してくれた。

 いろんなアイドルがテレビで親に反対されてって話をしてたから、てっきりわたしも反対されるものだと思ってたけど。

 あっさり許してくれた。


 それどころか、「忙しくなったら大変ねぇ」とか「学業優先? いえ、アイドルとして生きていくならお仕事優先なのかしら?」なんて心配をしはじめる始末。

 まだオーディションを受けることにしただけなのに。

 わたしのお母さんはちょっと親バカの気があるのかもしれない。

 お母さん、それはまだ気が早いんじゃ……


 その日のうちにお母さんが受付してくれた。

 これに受かったら、わたしアイドルになるんだ。

 憧れのアイドルに。


 オーディションってどんなことするんだろう?

 アイドルだし、歌ったり踊ったりかな?

 お母さんは一緒かな?

 でも、テレビに出てる子ってわたしより小さくても1人だし多分1人で受けるんだよね。


 ……ちょっと不安かも。

 神様がついてるけど、直接話せる訳じゃないしいつでもいる訳じゃない。

 さくらちゃんも誘おっかな?


『誘う』


 神様がそう言うならそうしよっかな。

 さくらちゃん可愛いし、きっとアイドル向いてると思うんだよね。


「さくらちゃんアイドルって興味ある?」


「え? 突然言われても……見るのは好きだよ」


「これ、さくらちゃんも一緒に受けよーよ」


「オーディション? 私には無理だよ、アイドルなんて。そりゃゆりちゃんは向いてるのかもしれないけど」


「ダメ? 一緒にアイドルやりたいなって思ったんだけど……」


「うーん」


 あれ?

 あんまり乗り気じゃない?


 そっか、誰でもアイドルになりたいって訳じゃないもんね。


 無理強いは良くない。

 わたし力も強いし口も回るからさくらちゃんにオーディション受けさせるだけなら簡単に出来るけど、本人が乗り気じゃないのにそんなことしても何の意味もないもんね。

 そう教えてくれたのがさくらちゃんだし。


 昔のわたしは友達がいなくて、そんなのいらないと思っていて。

 クラスのみんなをいじめてた。

 そんなわたしに「ダメだよ」って言ってくれて、「仲良くしよう」って手を差し伸べてくれた。

 大切な初めてのお友達。


 でも、誘おうかなって迷った時神様が誘った方がいいって言ってたし……

 神様がいってたんだから、このオーディション受けたらさくらちゃんにもいいことがあると思うんだけど。


 ちょっとだけ、無理強いはしないから。

 友達としてのお願い。

 それならいいよね?


「自信がないの? 大丈夫だよ、さくらちゃんかわいいもん」


「ゆりちゃんが一緒なら……やりたい、かな? でもゆりちゃんの方が私より全然可愛いし、私だけ落ちちゃったらどうしよう」


「オーディションはこれだけじゃないし、それにさくらちゃんならきっと受かるって。一緒にステージで歌ったり踊ったり、してみたくない?」


「……うん、私も受ける! 一緒にアイドルになろうね、約束だよ」


「うん、約束」


 良かった。

 さくらちゃんと一緒に受けるなら、オーディションなんて怖くないよね。


 それに、「ゆりちゃんと一緒なら」って。

 それってさくらちゃんわたしのこと……?

 もう、さくらちゃん大好き!


 ……


 大丈夫、だよね?

 無理矢理になってないよね?


 さくらちゃん、嫌じゃなかったかな……


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 あっという間にオーデイション当日、会場まではさくらちゃんと一緒に来た。

 起きた時はとっても緊張してたけど、さくらちゃんの方がもっと緊張しててカチカチに固まった表情見たら笑ってほぐれちゃった。


「笑うな!」って怒られたけど、仕方ないと思わない?


 試験内容はやっぱりダンスと歌がメインのみたい。

 何回か歌って踊って、その後お母さんと一緒に面接を受けるんだって。


 私の番になった時、突然体が勝手に動き始めた。

 ちょっとびっくりしたけど、わたしの体に昔から慣れ親しんだ気配が馴染むような感覚があってすぐ落ち着けた。


 もしかして、神様?


 私の体なのに私じゃないみたい。

 ダンスも、歌も、

 私の体ってこんなことまでできたんだ。


 神様が動かすわたしの体は、これまでよりずっと歌もダンスも上手だった。

 きっと神様が私の体の使い方を教えてくれてるんだ。


 2回目からは神様が私の体を操ることはなかった。

 お手本見せたから再現しろってことだよね?

 神様ほどじゃないけど、自分の体なんだからうまく動かしてみせるよ。


 やっぱり神様はすごい。

 結局一番初めが一番良かったと思う。

 わたしの体なのに、わたしが一番上手に動かせないのってちょっと凹んじゃう。

 それだけ神様がすごいってことだけど。


 でも、神様に教えてもらう前と後じゃ全然レベルが変わってたと思う。

 ありがとう神様。

 審査員の人にもとっても褒められちゃったし、これでわたしも憧れのアイドルに……


 そういえば、私と一緒に受けてた子が途中で帰っちゃったりしてたけど大丈夫かな?

 多分、神様を見て自信無くしちゃっんだと思う。

 その子は、わたしのせいで夢を諦めたんだよね……

 でも、仕方ないよね。

 プロになるってそう言うことって、誰かが言ってたもん。

 精神力が大事なんだって。


 外に出ると私と一緒に受けてた子みたいに落ち込んでる子が居た。

 結構こう言う子多いのかな?

 神様を見たならともかく、そうでもないのに落ち込んでるんじゃアイドルは辞めといた方がいいよね。

 だって、プロの世界には本当に凄い人がいるから。

 神様ほどじゃないと思うけど。


「あ、さくらちゃんどうだった?」


「緊張したけど、多分大丈夫だったと思う。ゆりちゃんは?」


「バッチリ、歌も踊りも今までで一番上手く出来たと思う」


「凄い、さすがゆりちゃん」


「私は今日一枚壁を越えたから」


 さくらちゃん緊張したっていってるけど、満面の笑顔だしきっと上手くいったんだと思う。

 顔によく出るから、失敗した時とかテストの点数悪かったときとか顔見るだけですぐ分かっちゃうくらいだもん。


「何それ、でもそこまで言うなら今の絶好調なゆりちゃんの歌聞きたい」


「お母さんに聞いてみよかっか、帰りカラオケ寄ってもいいか」


「うん、そうしよ」


 わたしとさくらちゃんはカラオケで大熱唱した。

 ライブの予行演習、わたしたち2人でおっきなステージとかでこうやって歌えたら。

 そう想像するだけでとっても幸せな気持ちになる。


 神様に教わった、わたしの体の正しい使い方も忘れないようにしないと。

 さくらちゃんがわたしの歌を聞いてとってもびっくりしてくれたし、少しでも神様に近づきたいから。


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 アイドルになるの楽しみだなぁ。

 オーディションの結果、まだかなぁ。


 歌ってみたり、

 踊ってみたり、


 そろそろ結果が来るはずとお母さんに聞いてから、わたしはずっとソワソワしている。


 そうだ、せっかくだから……


 私は一つ動画を投稿した。

 ただわたしがアニメの曲を歌っているだけの動画。

 お母さんに顔は映しちゃダメよって言われたから、ダンスは出来なかったけど。


 アイドルになる前に有名な動画出しておいて「実はこれプロになる前の私でした!」みたいな?

 昨日ちょうどテレビでやってる人がいたの。

 ちょっと憧れるんだよねぇ。


 お母さんに「子供っぽい」って笑われたけど、小学生はまだまだ子供なんでいいんですぅ。


「ゆりー、下降りてきて」


「もしかして?」


「正解、オーディション受けた事務所からのお手紙よ」


「一緒に見よう、早速みよう!」


「今開けるわね」


 やっと手紙が来たみたい。


 手紙の中には、なんか難しい文字がいっぱい書いてある紙が……

 大人ってこんなのいつも読んでるの?

 小説より細かくて頭が痛くなりそう。


「どうだった?」


「えっと……」


「……え?」


 お母さんが指差す場所には、落選の二文字が……


 落ちた?

 私が?


 お母さんは「また受ければいいじゃない、こんな偶然もあるわ?」って言うけど。

 ……何も頭に入らない。

 トボトボと部屋に戻った。


 私がただ落ちたならともく、神様を見た上で落としたの?

 神様はいまテレビに映っているようなアイドルよりもずっと……


 そっか、偶然か。

 そう言うこともある。

 むしろ、あそこ入らなくて良かったよ。

 見る目がないんだね。

 神様を評価しないとことか、こっちから願い下げだよね。


 ねぇ、神様そうでしょ?


 あれ?

 ……まぁ、神様いつもいる訳じゃないもんね。

 きっと、わたしの体の操作とかしてくれたから疲れてるんだよね。


 今をときめくアイドルも、オーディション何回も落ちたって言うし。

 また受ければいっか。


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「ゆりちゃん、明日のレッスン一緒に行こうよ!」


「え?」


 レッスン?

 何のこと?


「お母さんに聞いてないの? 昨日手紙が来て、合格者は明日からレッスンだって書いてあったってよ」


「……」


 ……合格?


「たのしみだなぁ。私、誘われるまでアイドルにあんまり興味なかったんだけど、ゆりちゃんと一緒ならとっても頑張れちゃうきがするんだ」


「ごめん、さくらちゃん。……わたし、落ちた」


「え?」


「オーディション、落ちたの。だから、1人で行って」


「……」


 わたしが落ちて、

 さくらちゃんが受かって、


 ……


「あ、もう時間。帰らないと……」


「待って、ゆりちゃん!」


 時間って、まだ朝の回だよ?

 わたし何やってるんだろう。

 これから授業あるのに、学校飛び出しちゃって……


 なんで?

 わたしが落ちて、さくらちゃんが受かって……

 何で……?


 ……


 あ、そういえば昨日投稿した動画。

 ……全く再生されてない。


 あ、そっか。

 そういうことか。


 さくらちゃんは特別で、わたしは特別じゃなかった。

 それだけ。

 単純なことだった。

 人にそんなんならアイドル辞めといた方がいいとか偉そうなこと思ってたわたしも、別にアイドルになれるような特別じゃなかったんだ。


 みんなしてわたしを持ち上げてただけ。

 実際、ただのお世辞だった。

 そうなんでしょ?


 だってわたしのこと褒めてたのなんて、


 家族と、

 さくらちゃんと、

 あとは先生と、


 ……


 審査の人は神様を見てただけだし。

 神様が居たからそう勘違いできただけ。

 実際のわたしは、神様の手をかりてもオーディションに落ちる程度でしかなくって。


 ……あれ?


 神様?

 そういえば最近ずっといないような。


 ねぇ、神様!


 いや、これまでも何日も神様の声が聞こえないことはあった。

 でも、こんなわたしが落ち込んでいる時に聞こえないことなんて、今までは悩んでいたり落ち込んでいたりしたらそっと背中を押してくれたのに。

 どうして?

 あの日から、オーディションの日からずっと……


 神様、私どうすれば。

 神様?


 わたしが特別じゃないから?

 わたしが期待を裏切ったから?


 お願い、見捨てないで!


 ごめんなさい。

 頑張るから。

 わたし、頑張るから。

 だから……


『リセット』


 久しぶりに神様の声が聞こえた。

 そしてプツリと神様との繋がりが切れたのがわかった。

 分かってしまった。


 かみ、さま……?


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