3話 将来のこと

3話 将来のこと

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 一度引きこもっちゃったりしたけど、それ以降は真面目に学校に通っている。


 また引きこもったりしたら、今度こそひまわりに失望されちゃうかもしれないもん。

 そんな情けないおねぇちゃんになりたくないから。

 それにお母さんにもあまり迷惑とか心配とかかけたくないしね。


 そんなわたしももう6年生、あと一年で卒業。

 もう中学生かぁ。

 小学生って長いようで随分と短かった気がする。


 大人は一年が昔よりずっと短いっていうけど、これよりももっと短くなるなんてあんまり想像できない。

 中学校はそもそも三年間しかないし、本当にあっというまなんだろうなぁ。

 早く大人になって、そしたらお母さんにいっぱい恩返しして妹の欲しがるものは全部買ってあげて……


 うん、そのためにも頑張らないとだよね。


「みんなー、おはよう」


「あ、ゆりさんおはよう」


「ゆりさん、昨日のテレビ見た? またさくらちゃんがドラマ出てたよ。ほんとすごいよねぇ」


「うん、うん、同い年とは思えないよね!」


「えっと……」


 一応、学校では結構うまくやれていると思う。

 幸いなことに、一度引きこもったことは人間関係にそれほど大きな影響はなかった。

 クラスメイトとの仲は問題ない、はず。


 みんなさん付けなのは、多分昔の名残だ。


 学校での話題は大体アニメかドラマかゲームの話。

 どこの学校もそんなもんでしょ?

 うちの学校はそこに一つ、大人気アイドルの『さくら』の話題が加わる。


 同じ学校、それも同学年だからね。

 クラス替えで今のこのクラスとは別クラスだし、お仕事であまり学校に来ないから直接の接点は少ない子が多いけど。

 それでもみんな興味津々だ。


 特に新曲を出した時とか新しいドラマが始まった時とかは、クラスがその話題一色に染め上げられる。

 話題についていくためには、わたしもチェックしといたほうが良いんだけど。


 ちょっと、ね……


「あー、わたし最近はあんまりテレビ見てないんだよねぇ」


「そうなんだ」


「やっぱり勉強忙しいの?」


「勉強?」


 なぜ勉強?

 確かにそれなりには頑張ってるけど。

 でもそれなりレベルだ。


 そんなテレビを見る暇もないほど勉強に必死になったことなんてないけど……


 別に塾とか行ってるわけでもないし、テスト前だから特別力を入れるとかいうわけでもない。

 というか別に今テスト前じゃないし。

 日々の予習復習レベルしかやってないんだけど、本当になんでだ?


 もしかして、わたしってそういうキャラなのかな?

 ガリ勉キャラかぁ。

 別にどう思われてもいいっちゃいいんだけど、実像と離れすぎてると会話すれ違ったりして面倒なんだけど。


 確かにいつも成績は上位だけども。

 あんまり勉強とか好きではないよ?

 ただ、やっといた方がいいかなってだけだし。


「そういえば、ゆりさんは中学校はどこ行くの?」


「え?」


「やっぱり、中学受験とかってするのかなって。勉強のためにテレビ見る時間も我慢できちゃうなんてやっぱり凄いなぁ」


「確かに、ゆりさんめっちゃ頭良いもんね」


「気になる」


「どこいくの? 東?」


 どこの中学校って、みんな同じところ行くんじゃないの?

 ここの小学校の学区の人って、中学校の学区も丸々一緒でしょ?


 そう思ってたんだけど違ったらしい。

 中学受験かぁ。

 存在自体は知っていたけど、もっとどこか遠い世界のものだと思ってた。


 わたし、みんなにそう思われてたんだ。

 もう小6だから、中学受験するなら追い込みの時期なのかな?

 だから勉強で忙しいのかなってことか。


 確かに勉強は得意だ。

 将来役に立つと思って、わたしが勉強できれば家族のためになると思ってそれなりには頑張ってる。

 でもそっか、そういう選択肢もあるんだ。


 受験、か……


「……考えたことないな」


「そうなの? 勿体無い」


「わたしはお母さんが"お受験お受験”ってうるさくって、毎日塾ばっかり」


「わたしも」


「まぁ、塾行ってても全然ゆりさんに敵わないんだけどね」


 そっか、みんな結構受けるんだね。

 中学受験ってそんな身近な選択肢なんだ。

 わたしは塾とか行ってないけど、中学受験受けて合格できるのかな?


 中学校によってレベルも違うだろうし、少なくとも彼女たちにはわたしが中学受験をする程度の学力はあるように見えたんだもんね。

 高望みしなければ、ある程度は受かる可能性がある?

 せっかく勉強してるんだし、試す機会があってもいいのかも知れない。


 よく考えたら、将来のために勉強してるのに中学受験が選択肢に入ってないのっておかしいんじゃないの?

 だって、いい大学に行くためにはいい高校に入っといた方がよくて、いい高校に行くには当然いい中学校に入っといた方がいいでしょ?

 勉強は環境も大事だっていうし。


 わたしはいっつも受け身だ。

 自分からどんどん動いていくべきなのに。

 自分で悩んで、結論を出さずに悩みっぱなしでおいといてしまうこと多いかもしれない。

 もう神様はいないんだから、自分で考えてしっかり答えを出さなきゃいけないのに。

 人知れず背中を押してくれる人はいないんだから。


 わたしは家族のために行動する。

 そう決めたのならそうあるように努力すべきなんだ。


「みんな受験するんだ。どこ行くの?」


「みんなってわけじゃないけど、受験する人も多いよ」


「わたしは東高附属中学校を受験する予定かな」


「ここら辺だと大体東高の附属か国立の付属かって感じだと思う……でも、ゆりさんならもっと難しいところ行けそうだしそっちの方がいいかも」


「そうなんだ」


 そうだよね、大学とかと一緒でレベルの高いところは多分都会にあるんだよね。

 ここから電車は……ちょっと厳しいのかな?


 うーん。


 いくら将来のためになるって言っても、あんまり遠いところで家族から離れるのは嫌だな。

 わたしは家族のために生きると決めた。

 でもそれは家族のために家族のために生きるわけじゃなくって、わたしのために家族のために生きるってことだから。

 

 ……自分で言ってて意味わからなくなってきたけど、でもそう言うことだ。


 近くにちょっとレベルが高いところがあるのなら、そこで良いかな。

 そもそも、今さら中学受験の勉強始めたところでクラスで成績がいいレベルのわたしがそんなレベルの高いところに受かるかは疑問だしね。

 きっと、幼い頃から塾に通って勉強してきた人たちには敵わないから。


 自分の能力を過信してはいけない。

 仮に中学受験を失敗したとしても、前みたいに落ち込んでひきこもったりなんてしないだろうけど。

 でも受験だってタダじゃないだろうし、それだけお母さんに負担をかけることになるんだから。


 これが、いい学校に行きたいってのが目的なら話は別だけど。

 家族のためにって言ってるのに、お母さんに余計な負担しいるのは違うもんね。

 目的を見失ったら元も子もないよ。


 都会の学校、か。

 都会だとアイドルのスカウトとかもあるのかな?

 それこそレッスンとかの教室もいっぱい……


 いや、わたしはこれでいいんだ。


 いい大学に入って、いい企業に就職して、

 そうすればお母さんに恩返しできる。

 妹が何をしたいのかは知らないけど、やりたいことがあってお金が必要ならそれを支えることだって出来る。


 お金で買えないものは多いけど、何かをしようと思った時お金はやっぱり必要になる。


 トップアイドルにはなれないけど、きっとアイドルだってなるだけだったら出来る。

 まぁ、夢が叶わないと理解していながらアイドルになる気にはなれないけどね。

 それぐらいお金って大切だし強力だ。


 夢は夢、現実は現実。

 家族はずっとわたしのために、オーディション受けたいって言った時も、落ちて勝手に塞ぎ込んだ時も、ずっとそばに寄り添ってくれたの。

 だから今度はわたしが家族のために。


 そう決めたのだから。


 わたしの夢は、いい思い出として心の中にしまっておく。

 それでいいんだ。

 きっとそれが正解なんだ。


「お母さん、わたし中学受験したい」


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 受験も終わって、今日はたっぷり時間もできたので久しぶりにひまわりとショッピングに来た。

 あ、結果は無事合格しました。

 そうじゃなきゃ呑気にショッピングなんて来れないからね。


 中学受験を思い立ったのが小6。

 そこから塾に通うわけでもなく、特別受験に向けて何かしたわけでもなく。

 変わったことといえば、普段からやっていた予習復習の時間がちょっと伸びたことぐらいかな。


 都会の方の難関中学校に受験してたら、きっと落ちていたんだろうけど。

 まぁ、県内の中学校にしたし最初から余裕あったからね。

 一応それなりの受験料がかかっているので緊張はしたけど、それだけだった。


 中学生活は、まぁ普通。

 受験して行く中学校だっていうから、もっとお嬢様お坊っちゃまばかり通ってるのとか、それこそまじめちゃんばかりなのとか、いろいろ想像してたんだけどそんなことはなかった。

 6年生の頃と特に雰囲気が変わらない。


 変わったことといえば、『さくら』の話題が減ったことぐらいだろうか。

 県内トップって言っても、うちの県の県内トップレベルならこんなもんなんだ。

 きっと日本トップレベルとかになると話が変わってくるんだろうけどね。


 新しい学校にも慣れて余裕もできたし、何よりひまわりニウム欠乏症でおねぇちゃんは緊急停止してしまいそうなので。

 早急な治療が必要です!

 ひまわりにそう力説したら冷ややかな目で見られたけど。


 そこまで受験に打ち込んでたわけじゃないって言っても、流石に本番が近づいてからは土日も勉強してたからね。

 家族だから毎日顔を合わせてはいるんだけど、やっぱり家で一緒にいるのと外に出るのは違うよね。


 ひまわりと手を繋いでデパートを散策中。

 あぁ、癒される。

 わたしの可愛いひまわり、どうして君はひまわりなのか。


 ……考えてる自分ですら意味不明すぎてちょっと怖い。


「おねぇちゃんこれ買お、面白いって友達が言ってたの。買って一緒に遊ぼうよ」


「どれ? って、3000円もするじゃん」


「中学生になってお小遣い増えたんでしょ? お願い」


「うーん……」


 ひまわりが持ってきたのはボードゲームだった。

 何か可愛いキャラが描いてある。

 Vtuber? そういうアニメだろうか?


 買ってあげたいけど、お金もうないんだよね。

 将来のために資格の勉強とかし始めちゃって、参考書代に消えちゃった。

 ああいう本ってちょっと高いんだよね。

 それに、毎年内容が変わるせいで中古だと意味ないことも多いみたいだし。


 あれ?

 そもそも、なんでお金ないのにショッピングに来たんだっけ。


 ……


 ひまわりと一緒に外出したくて、特に深く考えてなかった。

 もしかしてわたしバカ?

 せっかくきたのに、何も買ってあげないって言うのも姉としてどうなんだろう?


 財布の中には……4000円かぁ。

 まぁ、買えるしいっか。

 わたしが飲み物とか我慢すればいいだけの話だし、それでひまわりが笑顔になるなら安い買い物だよね。


「仕方ないなぁ、今回だけだよ」


「……おねぇちゃん、お財布の中お金あんまり入ってないんでしょ」


「ぎくっ、なぜバレた」


「バレたじゃないよ。お財布確認して、しばらく考えてたら誰だってわかるよ」


 ……しまった。


 あまりスマートじゃなかった。

 確かに、奢るよって言った人が財布見て固まってたらお金ないのかな?って勘づいちゃうよね。

 わたしのばか。


 ここは自然に、そしてたよれるおねぇちゃんとして……


「そもそも冗談なのに、おねぇちゃん真に受けないでよね」


「ええ、冗談だったの!? でも、ひまわりのお願いはおねぇちゃんなんでも叶えてあげたいから、欲しいものあったらおねぇちゃんに言ってね」


「おねぇちゃんわたしに甘すぎ、それぐらい自分のお小遣いとお年玉で買えるもん」


「頼ってくれないとおねぇちゃん寂しくて泣いちゃう」


「……じゃあ、ジュース飲みたい」


「好きなの買ってあげるから、持っておいで」


「はーい!」


 冗談って言っても、実際全く興味なかった訳じゃないよね?

 多分、わたしに気を遣ってそう言ってくれたのかな。

 ひまわりももうそう言うことが分かる年に……そもそも、昔から空気読んだり気を遣ったりするのはひまわりのほうが上手かった気がする。


 ひまわりこう言うのが好きなんだ。

 ちょっと以外っていうか、こう言うのって男の子の方が好きなイメージあったし。

 今度の誕生日はこのVtuber?っていうアニメのグッズにしようかな?


 妹に気を遣われるおねぇちゃんってのも情けないし、

 来たるひまわりの誕生日のプレゼントのためにも、

 さて、お金どうやって稼ごうか?


 中学受験したのは、将来お金を稼ぐため。

 いい高校いって、いい大学出て、いい企業はいればたっぷり稼げる。

 だから今は中学校の勉強に集中するのが最終的には一番効率がいい。

 それはわかってる。


 でも、出来れば早めに稼ぎたい。

 出来ることなら今すぐにでも稼ぎたい。


 ひまわりがゲーム欲しいって言ってるんだよ?

 買ってあげたいと思わない?

 恩返しするチャンスがこんなに早くきたんだよ?


 と言うわけで……どうしよう。


 バイトは……禁止だけど隠れてやれば大丈夫かな?

 そもそもわたしってもう働けるのかな?

 仮に働けたとして、それがバレて退学になったら元も子もないか。

 退学にならないにしても、お母さんに迷惑かけるしバイトはNGかな。


 わたしでも稼げる方法……

 何か、いい方法ないかな?


 中学生になったし小学生の頃使ってたいらないものとか、それこそもう勉強し終わった資格の本とか。

 そりゃ売れば多少はお金になるだろうけど、そんなの本当に多少でしかないし。

 仮にフリマサイトで自分で売るにしても……


 買取?

 中古?

 フリマ?


 ……なるほど。


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