【時代逆行】文明の利器禁止で事件に首突っ込んでみた 後日談
長く続いていた低温注意報は解かれ、真冬に束の間の暖かさが訪れた。
「春みたいな陽気だね」
謝礼がもらえるからか、瀬田は朗らかにそう言って青い空を見上げた。向こうには青藍タワーがそびえている。二人は金山に連れられて、応接室に通された。
「この度は調査にご尽力いただきましてありがとうございました」
深く頭を下げる金山に瀬田は首を振った。
「いやいや、こんなこと謝礼がなくてもやろうと思ってたからね」
心中にあるものとは反対の言葉を発する瀬田に、金山は微笑んだ。
「相見くんはどうなるんですか?」
高槻が尋ねると、金山は神妙な面持ちになる。
「学部内で検討した結果、やはり退学処分が妥当とのことになりました。あとは、今回の件は警察に引き継ぐという形になります」
「五年前の事件については?」
瀬田が厳しい眼差しを寄せる。
「その件については調査中なのでなんとも……」
「今回、試験問題が盗み出されたわけですけど、対策はされるんですか?」
「そうですね。専用のアプリを開発するという話も持ち上がってるみたいですけど」
ひとしきりの会話が終わると、瀬田がソワソワしだす。
「まあね、この大学もなかなか立派だしね、これからも何か問題が起こるかもしれないね」
「その時は、またよろしくお願いしますね」
金山が笑う。
「いや、そんなことにならないのが一番いいと思いますけどね……」
瀬田が金山の手にあるファイルに挟まっている封筒を目に停めて、盛大に咳払いした。
「しかしアレだね、高槻くんね、今回は初めての罰金もあってなかなかアレだったね」
「なんすか、アレって」
「ああ、そうでした!」金山は目を丸くして、ファイルの中から封筒を取り出した。「今回の謝礼をささやかですが用意させていただきましたので、お納めください」
「えっ?」瀬田は素っ頓狂な声を上げた。「いいの? 別に謝礼がほしくてアレしたわけじゃないんだけどね、高槻くんね?」
「なんすか、アレって」
白々しい瀬田に高槻は恥ずかしくなってしまう。瀬田は金山から封筒を受け取って、にんまりとした顔をカメラに向けた。
金山と別れ、高槻の車を停めてある駐車場に行くまでの間に、瀬田は封筒の中身を確認しようとした。
「車に乗るまで待てないんですか」
しかし、次の瞬間、目に見えて瀬田の肩が落ちるのが分かった。
「どうしたんですか、瀬田さん?」
振り返った瀬田の顔は無表情だ。
「今回はプラマイゼロじゃねえか」
その手には四枚の一万円札が握られていた。
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