【視覚遮断】目隠しして事件解決してみた! 後日談
「いや、いいですって。ご飯食べに来たんじゃないんんで」
≪梟亭≫のボックス席で、しつこくナポリタンを勧めてくる瀬田に四度目の拒絶を示すのは清水だ。今日は非番らしく、制服とは違ってガーリーな格好だが、大学時代に着ていたものをそのまま社会人になっても着ているというような空気感がある。
「お二人、もう動画始まってます」
「『始めますよ』とか言ってくださいよ」
清水が恥ずかしそうに居住まいを正した。
「高槻くんはこういう奴なのよ。ライブ感を大切にしがちというか」
「今日は清水さんがここに来たいと言ってたんで、それで短いかもしれないですけど、一本の動画にして、それでこの≪目隠しして事件解決してみた!≫シリーズ完結としようと思ってまして」
「まあ、色々とお世話になったんで、形だけでもお礼を、と思って。形だけでも」
礼を言う気ゼロの雰囲気をバシバシと見せつける清水に、瀬田は得意顔だ。
「俺のおかげで勇み足を踏まずに済んだからな」
「いや、それは……否定はできないですけど」
「茜さんの虐待を疑ってたんだろ?」
「もう少し後だったら、誘拐の線でも刑事課と合同で動くつもりでしたよ」
「そういえば、瀬田さん、初めから誘拐の可能性は考えてなかった感じでしたけど」
高槻が記憶を手繰り寄せてそう言うと、瀬田はうなずいた。
「快斗が泣いて電話をしたって時点で誘拐はないと思ってたよ」
「なんでですか? 夢くんが誘拐された現場に出くわしたかもしれないじゃないですか」
ムキになって詰め寄る清水を瀬田は軽くあしらう。
「仮にそうだとするとさ、なんで誘拐犯は夢が一人のところを狙わなかったの? なんで快斗のことは無視してそのままにしたの?」
「二人がかくれんぼをしていて、夢くんが誘拐されるのを快斗くんが見たのかもしれないじゃないですか」
「あの二人の関係性でかくれんぼで遊ぶなんて考えられるか?」
「それはそうですけど……」
悔しさを噛みしめて、清水はコーヒーを口にした。
「瀬田さん、ずっと嫌な予感がするみたいなこと言ってましたよね」
「あのね、高槻くんね、ため池を浚うまではあそこから夢が見つかると思ってたわけよ。それが最悪な予感ってやつね。そもそも、快斗は夢が大変なことになっているのを知って黙っていると思ってたもんだからね。無言の留守電は罪の意識の表れなわけだからね」
「夢くんが河原町の空き家で過ごしていたっていうのはいつから?」
「夢がため池で見つからなかったと分かった瞬間だね。夢のランドセルが置き勉で軽くなってたことを見落としてたことに気づいて、全てが繋がったわけよ」
「それで、夢くんが本当のことを自分から話し始めるのを待っていたわけですか」
「そう。それがこの事件の一番の落としどころだからね。まあ、そうはならなかったんだけどさ」
清水は見直したように瀬田を見た。
「瀬田さんもそういうことを考えられる脳味噌があったんですね」
「俺をなんだと思ってるんだ……」
「知ってました?」清水は愉快そうだ。「鷺市にサングラスで車椅子のハスラー探偵がいるっていうウワサ」
「もはやそれは俺じゃないだろ」
高槻が進行をする。
「というわけで、今回の≪目隠しして事件解決してみた!≫は、これにて一件落着ということで」
「そうだ、一つだけ報告が」清々しい表情で清水がそう切り出した。「夢くんと快斗くんはあの後からよく話すようになったらしくて、今は家族ぐるみの付き合いを始めているようですよ」
「よくもまあ、あんなことがあった家族と仲良くできるな……」
人間の感情を失った瀬田が帰ってきた感がある、クズでこそ瀬田である。彼はカウンターの菊川の様子を観察して、立ち上がった。
「マスター、チョコクリームサンドできたか?」
カウンターに歩いていく瀬田に菊川は申し訳なさそうな顔をした。
「持って行くからいいのに」
「目で見て歩き回れる喜びを噛みしめているんだよ」
その背中を清水は微笑んで見ていた。
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