第46話

「オリヴィア、大丈夫か?!」


幸せな夢だった。そう思いながら目を開けると、目の前に心配そうな顔をしたウィルが居た。


「ウィル……?」


「無事か?! どっか痛いところはねぇか?!」


「幸せな夢を見たの。ウィルと踊って、みんなと話をして、とっても楽しかったわ」


「それ、夢じゃねぇ。現実だ。昨日の出来事だよ。ったく、アイツら寄ってたかって求婚してオリヴィアを混乱させやがって……」


ウィルが物凄い殺気を放っている。

ふと周りを見ると、サイモンとエドワード、マーティンとモルダー先生がロザリーに説教されてる。あれ、正座よね? この世界、正座なんて風習なかったと思うけど。


ぼんやりしていた視界が明るくなると、現実が見えてきた。わたくしは平民になって……家に帰ってきたら、みんなから求婚されて……どうして良いか分からなくて……そうだ。ウィルの顔を思い出して……断らないと、そう、思った。


だって、わたくしが好きなのは……。目の前で心配そうにしているウィルだから。


その時ようやく、自分の気持ちを自覚した。


自覚したら、ウィルの顔がまともに見れない。あれ? わたくし、ウィルに抱き抱えられてる?!


「きゃ、きゃあああ!!!」


「オリヴィア?! どうした?!」


「なななな……なんで! なんでわたくし……ウィルに抱き抱えられるのっ……?!」


「支えねぇと怪我するだろ」


「そそそ……そうね! あ、ありがとう! もう大丈夫です。下ろして下さい。お願いします……」


「分かった。……残念だなぁ」


ざ、残念って仰いました?! 小声だけどバッチリ聞こえたわよ! そうね、確かに残念……って……あああ! みんな見てる!


「ううう……お願い、下ろしてぇ……」


ウィルは、すっごく嬉しそうに笑いながら下ろしてくれた。みんなは……生ぬる〜い目で見てるし……どうしたら良いの。


助けてくれたのは、ロザリーだった。


「オリヴィア、大丈夫? ケダモノは排除するから、安心して!」


「け、ケダモノ?」


「あそこで正座してる奴らよ! オリヴィアは、アイツらのせいで倒れたんでしょ?!」


「違う! みんなは悪くないわ! そりゃ、驚いたわ。でもちゃんと紳士的に求婚してくれたもの! 嬉しかったわ。わたくしがパニックになったのは、ロザリーがわたくしに自分の護衛を付けるなんて言ったからよ!」


「え、あたしのせい?!」


次の瞬間、正座をしていた4人がロザリーを取り囲んだ。


「ロザリー様、お言葉が乱れておりますよ。もう、正座とやらは良いですよね?」


「え、エドワード……? ご、ごめんあそばせ……」


「これだけは言わせて下さい。王妃様に付けられた護衛は、王妃様を御守りするために国王陛下の命で任務を遂行しています。勝手に護衛対象を変更させるなど、いくら王妃様でも不可能です。あまり、騎士を舐めないで頂きたい」


「マーティン……ご、ごめんなさい……わたくしが悪かったわ……」


「ウチの支援はもう要らない?」


「要ります! ごめんなさいサイモン!」


「ロザリーは立派な王妃になったと思っていたが、もう少し勉強が必要だな。少しはアイザックを見習え」


「はい……。ごめんなさい先生……」


「ご安心下さい。王妃様が勝手に、勝手にオリヴィアを訪ねた事は既に国王陛下、宰相様を含め各部署に通達済みです。今日だけは大目にみるが、明日からはちゃんと報告して出かけるようにと陛下のお言葉を賜っております」


「勝手にって2回言った! うう……帰ったらアイザックに叱られそう……」


「叱られるだけで済めば良いですね」


「え?」


「リリアン先生が、明日から1ヶ月の特別講義を行って下さる事になりました。王妃様には、まだまだ勉強が必要ですから」


「ウィルの仕事が……早すぎるっ……!」


「特別講義の間は外出禁止です」


「酷い!」


「酷くねぇよ。こんくらいで許してやるんだからむしろ慈悲深いだろ」


「わ、わたくしが何をしたって言うのよぉ……」


「オリヴィアを倒れさせたんだ。万死に値する」


「重い! 罪状が重すぎるわ!」


「確かに、ちょっと重いね。けど、相手はウィルだよ? 優しい方だと思うけど。あーあ、ボクら怒られ損じゃん。やっぱりフラれたし。こんな事ならもっと積極的にいけば良かったよ」


「ホントだね。オリヴィア、ウィルに飽きたらいつでも教えてね」


サイモンとエドワードが、優しく微笑んだ。


「ごめんなさい。みんなが求婚をしてくれたのはとっても嬉しかったわ。けど、お請けする事は出来ない。わたくしは、好きな人が居るから」


「分かってる。オリヴィアは、ウィルが好きなんだろう?」


マーティンが、真っ直ぐわたくしの目を見ながら聞く。


「ええ。わたくしは、ウィルが好き。だから、ごめんなさい」


「謝らなくて良い。俺達だって分かってたんだから。けど、どうしても伝えたかった。あわよくば自分を選んで貰えるかもしれない。そんな下心もあったしな」


「モルダー先生……」


「ほら、愛しの男が固まってるぞ。自分が選ばれるとは思ってなかったんだろうな。俺達は退散するからゆっくり話すと良い。ロザリー、いや、王妃様。帰りますよ。お教えしたい事がたっぷりありますからね」


「せ、先生ぇ……ごめんなさいぃ……!」


そのまま、ロザリーを連れてみんなは帰って行った。部屋に残ったのは、1人だけ。


「オリヴィア……ほんとにオレで良いのか……?」


真っ赤な顔をした、ウィルだけだった。

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