第31話【エドワード視点】

「きっかけのひとつではあるね。アイザックがオリヴィアを大事にしてれば、サイモンは怒らなかった。2人がすんなり結婚すれば、今朝までの平穏な日々が続いただろうね」


でも、それはウォーターハウス商会の犠牲の元に成り立つ偽物の平穏だ。


「そんなにオリヴィアはサイモンに慕われてたのか」


「そうだね。ウォーターハウス商会を救ったのはオリヴィアだから」


「そうなのか?!」


「本当に婚約者に興味がなかったんだね。オリヴィアの事を調べれば、真っ先に出てくるのはウォーターハウス商会だよ。潰れかけた商会を、オリヴィアが侯爵家を名前を使って盛り返したんだ。その時の彼女はまだ5歳だった。天才少女だってずいぶん騒がれたよ。だからアイザックの婚約者候補になったんでしょ。親からは勝手な事をしてって虐待されたらしいけど、ウォーターハウス商会が謝礼として美しい宝石をいくつか進呈したら収まったらしいよ。オリヴィアが言ってたから、本当なのは間違いないよ。ってか、アイザックも知ってると思ってた。そこまで無関心とはね。そりゃサイモンも怒るよ」


国王陛下が馬鹿みたいな税率を課したのは1年前。それまではいろんな商会があったけど、潮を引くように撤退していった。今現在城と取引のある業者はほとんどウォーターハウス商会の関係者だ。サイモンに情報が流れているのは間違いない。あれだけ慈しんでるオリヴィアを蔑ろにしてたら、怒るに決まってる。


「まぁ……アイザック様とロザリーが抱き合ってる姿をわざとオリヴィアに見せるくらいには怒ってましたね」


「え、あれサイモンの仕業だったの?!」


「ああ、オリヴィアが泣いていたからサイモンを糾弾したら叱られたよ。私の職務怠慢だとね」


「それは……ちょっとマーティンが可哀想かな」


マーティンの立場じゃ、アイザックに意見は言えない。


「いや、サイモンの怒りはもっともだ。あんな浮気男がオリヴィアに相応しいと思ってるのかと詰め寄られたよ」


「うっわぁ……あってるけど辛辣ぅ……あ、じゃあもしかして今回の事態は僕のせいでもあるのかも」


「私はともかく、エドワードは何も悪くないだろう」


「僕さ、ついさっきまでオリヴィアしか王妃は出来ないって思ってたんだ。それって、サイモンからしたら腹が立つと思うんだよね」


「確かに……そうだな。サイモンがオリヴィアを大事にしてるのは間違いない。なのに、オリヴィアを愛してない殿下との結婚を強いているとなれば……」


「そ、ごめんね。この事態は僕のせいでもあるみたいだ」


オリヴィアは、アイザックが好きだった。だから王妃になるのがオリヴィアの幸せだと思ってた。


けど、違ったんだね。分かってたのはサイモンとウィルだけだったんだろう。


僕はオリヴィアの事を一番分かってると思ってたけど、自惚れだったんだ。


「エドワードは悪くない。もちろんマーティンも。全ては2人の話を聞かなかった私の責任だ」


アイザックはちゃんと反省して成長しようとしてる。僕はどうなんだろう。さっきから、全く頭が働かない。


「エドワード、オリヴィアの様子はどうだ?」


マーティンが心配そうに僕に聞いてきた。そういえば、マーティンはアイザックは婚約解消した方が良いって言っていたな。オリヴィアを解放してあげようって。だけど僕は、ダメだって否定した。僕もアイザックと同じだったんだ。


だってそうしないと、オリヴィアが何処かへ行っちゃうと思ったんだ。自分勝手なのは、僕もだね。


「フラフラになりながら働いてる。ずっとなにか考え込んでる様子だけど、手は動いてる。あの様子だと寝ないで働くつもりだよ」


「なんとか休ませないとまた倒れるぞ」


けど、僕じゃオリヴィアを休ませられない。


「今までならアイザックが言えば休んでくれたけど、今はどうすればオリヴィアを休ませられるか分からないよ」


サイモンが出て来れば休むだろうけど、サイモンは行方不明だ。何かいい手を考えないと。


「あそこまで嫌われるとはな……私がした事を考えたら当然だが……」


「今までのオリヴィアはからは考えられませんが、オリヴィアは本気でアイザック様を嫌っていますね。私も最初は信じられませんでした」


「今更なんだけど、アイザックはオリヴィアの何処が不満だったのさ。あんな良い子、滅多にいないと思うけど」


要らないなら代われって何度も思ったくらいアイザックはオリヴィアに無関心だった。


「……そうだな。今はそう思う。けど、以前はそんな事思えなくて……ただただオリヴィアが疎ましかった」


「アイザックはオリヴィアを好きじゃなかったもんね」


「オリヴィアと結婚するのだろうとは思っていたが、ロザリーに感じたような感情は持った事がないな」


「正直なのはアイザックの良いところだけど、デリカシーがないよね」


「恐れながら、私もそう思います。あまりにオリヴィアに失礼です」


「……すまん」


オリヴィアがアイザックを見限った理由が分かる。むしろよく今まで耐えててくれたよね。


ロザリーは、そんなアイザックを最低だと罵っていた。ウィルが来て有耶無耶になったけど、あの子なら……王妃になれるのかもしれない。けど、ロザリーはもうアイザックを嫌ってたりしないかな? 僕がロザリーの立場なら、いくらアイザックが好きでも冷める。なんだこのクズとしか思わない。


目の前で仔犬のようにしょぼくれているアイザック。色々気が利かない友人を支えてくれる女性は見つかるのだろうか。


それと……今でも必死で働いてるオリヴィア。彼女はアイザック一筋だった。泣く泣くアイザックを諦めたのかと思ってたけど、違った。今の彼女の方が美しく、可愛らしい。いや、元々可愛かったけど。って、そうじゃなくて!


多分、いろんな男を虜にしているのだろう。オリヴィアを愛しているのだろうなと思う男が何人か思い当たる。オリヴィアは鈍感だから、気が付いてなさそうだけどね。


彼女の婚約が解消されたらすぐにでも誰かに攫われそうだ。それは嫌だな。オリヴィアの笑ってる顔を見るのは僕であって欲しい。


要らないなら代われって何度も思った。けど、大事な友人の婚約者だからと気持ちを押し殺してきた。けど、それももう終わり。


僕は子どもの頃から、オリヴィアが好きなんだ。

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