悪役令嬢とヒロインは手を組みました

第30話【エドワード視点】

「最悪なシナリオの方だったね」

「……どうしよう……何処に居るの……サイモン……」

もう深夜だ。だけどオリヴィアは手を止めない。半泣きになりながら働いてる。

アイザックが国王陛下を転がしてサイモンの居場所を聞き出し、王族のみが入れる地下牢に行ってみたら牢は空っぽだったそうだ。居る筈の見張りも居なかった。

アイザックはサイモンの脱出が知られないように誤魔化してくれてる。今頃、先生にも情報が伝わってるだろう。ウィルが封鎖された学園にどうやって侵入するのか知らないけど、オリヴィアが先生への連絡を頼むと事もなげに頷いていたから、なんとかするんだろう。その後はすぐ人を集めてサイモンを探すと言ってたけど、彼は何者なんだ。僕が本気で話をして怯えなかった子どもは彼だけだ。大人だって黙らせられるのに、ウィルは僕と対等に話してくれた。オリヴィアも、ウィルを信頼している様子だ。

悔しいけど、サイモンの捜索はウィルに任せる方が良さそうだ。僕らは僕らで出来る事をやらないと。既に騎士団は街の治安を守る為にあちこちに散った。期待は薄いけど、サイモンを見つけたら報告するようにと頼んである。マーティンはアイザックを守りながらなんとか情報を集めようとしてくれてる。アイザックは、苦手な嘘を吐いて国王陛下を騙してる。サイモンと交渉するのは自分だけにしてくれって頼んでくれた。これで、国王陛下の一派がサイモンの行方不明を知るのは遅れる。アイザックが嘘を吐くなんて誰も思わない。しばらくは騙されてくれるだろう。先生も学園を守っておられるし、ロザリーも頑張ってくれてるだろう。

サイモンを人質にしてウォーターハウス商会から更に金を搾り取ろうなんて国王陛下は馬鹿だと思う。現実が見えてなさすぎる。

国王陛下の元にウォーターハウス商会から大量の金品が届いたそうだ。だが、まだ搾り取れるからサイモンは返さないと言ってるらしい。捕まった瞬間に金品が届くなんておかしいだろ。手際良過ぎでしょ。絶対サイモンの手配だよ。彼は国王陛下達が金品に夢中になってる間に逃げたんだ。

オリヴィアは、忙しなく働きながらずっと何かを考えてる。

この騒ぎがいつまで続くか分からない。父上にサイモンが居ないと言ったら、卒倒しそうになっておられた。

分かるよ。これからの混乱を考えたら卒倒したくもなるよね。父上はすぐにサイモンを救い出そうとしていたそうだから。でも、居場所が分からなくて困ってたらしい。

サイモンは最初から分かってたんだ。自分が囚われる可能性がある事も、自分が姿を消せば父親がどう動くかも、周りがどう巻き込まれていくのかも。

なんでこんな事をしたのかオリヴィアは分からない様子だったけど、僕には分かる。サイモンは、僕らの想像以上に怒ってる。この国を潰すつもりなんだろう。

国王陛下はもう駄目だろうな。アイザックがちゃんとしてくれてる事だけが救いだ。学園の封鎖も、アイザックの名でしてくれてるからアイザックと国王陛下は真逆の考えをしてる事は示せる。

学園でのアイザックの評価は底辺だけど、底辺ならあとは上がるだけだ。姿を消しているのならサイモンは無事だ。いつ出て来るかは彼の気分次第といったところだろうけど、うまくいけば国内の膿を出せる。けど、それにはかなりのダメージを伴う。出来れば早急にサイモンを見つけ出したい。

ウィルの言葉を信じるなら民はなんとか生き延びられる。けど、その言葉を全て信じる訳にいかない。出来る限りの手を打たないと。大人達と相談して、貴族達に備蓄を全て放出するように指示を出す事になった。

ウォーターハウス商会の連絡網がどんなものか分からないけど、国より情報伝達が遅いと思いたい。無駄な願いのような気もするけど。

備蓄の放出を国王陛下に言っても無駄だから、アイザックが命令書を書いてくれてる。ウィルは居ないからこっそり僕が取りに行ったんだけど、アイザックは休みなしで書類を書いてたみたいで、疲れきっていた。

「アイザック、大丈夫？」

「ああ……大丈夫。これで最後だ、頼む」

「分かった。ありがとう。命令を聞かなそうな貴族はこっちからも人を回して脅すから安心して」

「ありがとう。私は父上の動向を注視しておく。民の様子はどうだ？」

「ウィルの報告によると、まだ大きな混乱は起きてないね。けど、国王陛下が商人にめちゃくちゃな税金を課してたのはみんな知ってる。だから、一斉に閉まった商店を見て、ついに商人に限界がきたんだって不安がってるよ。個人で備蓄してる人も多いからしばらくは大丈夫だろうけど、1週間したら大混乱だろうね」

「1週間か……サイモンはすぐ見つかると思うか？」

「無理だね。オリヴィアもウィルも居場所が分からないって言ってる。あの2人が分からないなら、もう当てはない。ウォーターハウス商会の人に話を聞こうと人を回したら既に全員姿を消してた」

「詰んでるな」

マーティンが呟く。そう、詰んでるんだよね。

「そうだね。でも、これが本来の姿だよ。今まではオリヴィアの為にサイモン達が我慢してくれてたから平穏だっただけ」

「私の……せいだよな」