第27話
「ろ、ロザリー……?」
「アイザック様は、本気でオリヴィア様に謝罪するおつもりはあるのですか? どうして、私の事を仰らないのですか? 婚約者のいらっしゃるアイザック様に近寄った私も悪いですけど、ご婚約者がいらっしゃるのでは? と伺った時、オリヴィア様の事を教えて下さいませんでしたよね。オリヴィア様、本当に申し訳ありません。私はオリヴィア様がアイザック様の婚約者だと知っていたのに、自分が視た未来が正しいと思って行動してしまいました。オリヴィア様はこんなにお優しいのに、アイザック様の反応からオリヴィア様は意地悪な方だと思っていたんです。申し訳ありません」
「良いの。むしろ不良さ……、なんでもないわ。とにかく、ロザリーには感謝してるの。わたくしは身を引くから、殿下とお幸せにね」
「いやいやいや! オリヴィアが王妃にならないなんて無理だから! 今不良債権って言おうとしたよね! 確かにその通りだよ! アイザックが嫌なら別の人を王にしようか?! それならどう?!」
エドワードの発言に、頭に血が昇ってしまう。アイザックと結婚するのだけは嫌よ! それに、いくらなんでも発言が危険過ぎるわ。
「それはおかしいでしょ?! 何考えてるのよ! その発言は不敬罪どころじゃないわ! 今すぐ撤回して! わたくしは王妃にならないから! 殿下はわたくしをコマとしか思ってらっしゃらない! さっきの謝罪、聞いたでしょ? ロザリーの事、ひとことも言わなかった。まだ逃げてるのよ。こんな人愛してないと支えるなんて無理! わたくしはもう殿下を愛せない! 正直、同じ空間に居るのも嫌よ。エドワードはなんでそんなにわたくしを王妃にしたがるのよ!」
「昔みたいに王がちゃーんと王妃の仕事まで出来るならともかく、今はオリヴィア並に出来る子じゃないと国が傾くんだよ! 古代語が出来るだけじゃ王妃は無理なの! アイザックが好きってだけで、あの子に腹黒い交渉が出来る? 出来るだけじゃなくて、オリヴィアみたいに成功させなきゃいけないんだよ。能天気カップルはオリヴィアがどれだけ苦労してたかなんて知らないだろ。オリヴィアは毎日泣きながら働いてた。それなのにオリヴィアを冷たいって言うんだよ。そこで泣いてるだけのお嬢様に同じ事が出来るの? 万が一出来たとして、オリヴィアみたいにロザリーは冷たくなった、なんて馬鹿な事言い出したりするかもよ」
「う……、大丈夫よ! わたくしと違ってロザリーは殿下に愛されてるもの! だって、王妃に相応しいのはロザリーだって言った時、殿下は否定しなかった。わたくしみたいな冷たい女よりロザリーが良いって思ってるわ!」
「オリヴィアは冷たくない。オリヴィアを冷たいと言うヤツの方が冷たいよ。今の情勢だと、王妃になる覚悟だけじゃ足りないの。結果がいるんだよ。オリヴィアが長年かけて築き上げた貴族の信頼、睡眠を削ってまで勉強した知識、完璧な社交。親の協力がなくて、それだけの事ををするのがどれほど大変だったか。それ、全部無駄になるんだよ?! それに、きっと勘当される!」
「無駄になって良いわ! 勘当上等よ! 貴族はもう嫌! わたくしは平民になるわ!」
「本気なの? 確かにそんな事言ってたけど、なんだかんだアイザックが好きなんだと思ってたのに。貴族が嫌になるくらい、アイザックが嫌いなの?」
「別に殿下のせいだけじゃないのよ。けど、もう頑張れないってのは本当。やっぱり愛し合ってる夫婦が国を支える方が良いじゃない。貴族なら結婚はしなきゃいけない。わたくしみたいな冷たい女、誰にも愛されないわよ。婚約解消したらお父様はわたくしを捨てるわ。だから平民になるのは確定よ。平民なら、結婚しなくても良いから嬉しいの。ロザリーは古代語は完璧だから王妃になる最低条件は満たしてる。それに、自分に意地悪を言ってきた貴族達の顔を覚えて、名前を調べる強かさもある。身分については、高位貴族の養女にすれば良いんじゃないかしら。ロザリーは元々平民なのに、無理矢理イザード男爵が養女にしたんですって。だから助けてあげたいの。マナーはわたくしが教えるわ。ね、エドワード、お願い!」
「……分かった。調査して対応する。彼女を受け入れてくれる貴族も探すよ。けど、オリヴィアが誰にも愛されないなんて事ないから。アイザックの言葉なんて聞かなくて良い。みんなオリヴィアの事が好きだからね」
「そうですよ! あたしもオリヴィア様が好きです! 前世でも、あたしを助けようとしてくれて死んじゃったんです。今だって優しいし……こんな良い人初めて会いました!」
「オリヴィアが良い人なのは間違いないね。ねぇアイザック、オリヴィアの何がダメだったの? ろくに贈り物もしないし、渡すのは好きじゃないって言ってる薔薇ばっかり。嫌がらせ? せめて好きな花渡せよ」
「あ、知ってます! 小さな頃、お父さんにあげようとして薔薇の花を持って行ったら、棘で怪我したって虐待されたんですよね! それから両親が冷たくなったから、薔薇は大嫌いな花の筈!」
「え?! オリヴィア、ホント?」
「え、ええ……けど、その事は誰にも言ってないのに……」
サイモンは知ってる。きっとウィルも分かってるだろう。けど、わたくしはあの日の事を誰にも言ってない。エドワードだって知らなかった。正直、薔薇は見るのも嫌だ。けど、大好きなアイザックが渡してくれるから受け取ったし、大事にドライフラワーにして取ってあった。前世を思い出した後すぐ処分しちゃったけどね。わたくしの過去の描写なんてゲームにあったかしら? 記憶にないわ。ロザリーはかなりゲームをやり込んでいたのかもしれない。
「あ、ああー……えっと、前世を思い出した時に視えたんです!」
「なるほどね。僕も知らなかった事を知ってるのは気に食わないけど、前世なら仕方ないか。じゃあ、アイザックはずーっとオリヴィアの嫌いな花を贈ってたって事?」
「薔薇が苦手なんて伝えてないのだから仕方ないわ」
「僕でも薔薇を貰った時のオリヴィアの反応がおかしいって気がついてたよ。薔薇は嫌いなんだろうなって思ってた。ケーキは?」
「あれは単にクリームが苦手なだけ。特に嫌な思い出はないわ」
「オリヴィア様が好きなのは、蜂蜜とミルクですよね? 幼い頃にアイザック様がくれたって……」
「あ、それ、違うわ。アイザックからミルクや蜂蜜を貰った事はないわ。アイザックがくれる誕生日プレゼントはいつも薔薇とケーキだったし、誕生日以外で贈り物を貰った事は一度もないわ」
「え、ゲー……」
その時、ドアが乱暴に開かれた。
現れたのは、真っ青な顔をしたウィル。
目が腫れていて、今にも倒れそうだ。
「オリヴィア……、サイモンが……、サイモンが……!」
こんな状態になったウィルを見たのは一度だけ。彼の妹が倒れて、夜中にわたくしの屋敷に侵入して助けを求めてきた事があった。あの時と、同じ。
ウィルは、大事な人が傷つくと脆い。
「サイモンに……何があったの?」
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