第25話

「え、えええっ……?! なんで?!」


「なんでって……アイザックはロザリーを愛してるし、わたくしには物凄く冷たいもの。ね、ロザリーに冷たい事言ったりしてない?」


「ない。いつも優しいわ」


「良かった! 貴女には優しかったのね。ねぇ、ロザリーはアイザックが好き? ゲームと違って、彼は誰にでも優しい王子様じゃないわよ」


「……好き。前世でも一番好きだった。今でも好き。確かに、ゲームとは違うのは薄々分かってた。でも、あたしは今のアイザックが好きなの」


「王妃になる覚悟はある?」


「アイザックとオリヴィアが許してくれるなら、頑張りたい。けど、王妃はオリヴィアじゃないと無理だってみんな言ってる。あたしはせいぜい妾だって。この国は一夫一妻だから、妾なんてなったら日陰の身で外には出して貰えない。可哀想に。でも、男爵令嬢なら大出世ねって」


「……へぇ、そんな事言った貴族が居るのね。言ってきた人達の顔と名前、分かる?」


「分かるよ。名乗らなかったけど腹が立ったから調べた。これ、リストにしてあるわ」


名前は、会話をこっそり聞き取ったのだそうだ。一部間違っていたが概ね実在する人物だから間違いないだろう。ロザリーが描いたと思われる美しい似顔絵も付いていた。


リリア様の一派だわ。わたくしの次に身分が高く歴史のある伯爵令嬢。彼女は王妃になりたがってた。でも、古代語が全く習得出来なくて候補から外されたのよね。


だから、スラスラと古代語を操るロザリーを目の敵にするのだろう。


「対処のやり方を教えるわ。彼女達を大人しくさせられる。やってみない?」


「やるわ!」


「けど、アイザックに嫌われるかもよ。わたくし、腹黒い交渉を全て担ってきたの。そしたら、冷たい女だって言われるようになったわ」


「え、マジで?」


「マジよ。あ、この世界にマジって言葉はないからね。話す時は気を付けて」


「分かった。ねぇ、話を聞いてると……アイザック最低じゃない?」


「そうね。婚約解消を願う手紙を書いたらアイザックじゃなくてマーティンが訪ねて来たわ」


「だいぶ最低だ!!!」


「押し付けるわたくしが言うのもなんだけど、アレのどこが良いの?」


「アイザックは、あたしを助けてくれた。過去のあたしは、なんてゆーか……典型的なイジメにあっててさぁ……そんな時、キミボウに出会ったんだよね。画面の中では、みんなに優しくされるヒロインでいられた。アイザックが虐めから助けてくれるシーンがあるじゃない? それが大好きでさ……」


「確かに、あれは良いわよね! 分かるわ!」


「やっと生きる希望が湧いてきたところで、事故で死んじゃってさ……そういえば、あの女の子どうなったんだろ……」


「女の子?」


「うん。デパートでキミボウの展示会やってて、見に行こうとしたらいじめっ子と鉢合わせしてさ、慌てて逃げようとしたら階段から足を踏み外したの。優しそうな女の子が助けようとしてくれたんだけど……大丈夫だったかなって」


「……それ、わたくしだわ」


「え?!」


「キミボウの展示会に行った帰りに、階段から落ちてる女の子を助けようとして……そこから記憶はないわ」


「じゃ……じゃあ、あたしのせいでオリヴィアは……」


それからは大変だった。ロザリーが泣き続けたのだ。マーティンはオロオロとハンカチを差し出すし、エドワードは席を外そうかと気を遣ってくれる。


2人とも、わたくしがロザリーを泣かせたなんて思ってない。


それなのに……。


「オリヴィア! ロザリーに何をした!」


寮にズカズカと侵入してきたアイザックは、ロザリーが泣いているのを見た瞬間わたくしを殴ろうとしてきた。

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