第24話

「はじめまして。ロザリー・ヴォーン・イザードと申します」


「オリヴィア・オブ・ガードナーですわ。お会いできて嬉しく思います」


無言。


お互い、探りあってるわね。


侍女を伴って同席してくれたマーティンとエドワードが心配そうに見てるわ。


アイザックは理事長先生と城に帰ってる。


サイモンとウィルは、アイザックが戻って来たらすぐ連絡出来るように見張ってくれてる。


マーティンのおかげで、ようやくロザリーと話せる。けど、ロザリーが前世持ちかどうか分からない。わたくしと同じように、キミボウの知識を持っているかも知りたい。


そうだ。


「ロザリー様は、キミボウをご存知?」


わざと古代語で話しかける。


「……! 知ってる! 知ってますっ!」


やっぱり彼女もわたくしと同じなのね。


女同士なら構わないだろうし、2人だけで話をさせて貰った。エドワードが不満そうだったので、部屋の隅で小声で話す。エドワードとマーティンの視線が痛い。


「エドワードとマーティンと理事長先生には、わたくしが前世持ちとは伝えたけど、キミボウの話はしてないの。だから、ゲームの事は彼らには内緒にして貰える?」


「もちろんです! あたし、誰にも言ってないんです。気味悪いって思われるかなって怖くて……」


「分かるわ。わたくしもよ。でもね、この世界は前世持ちが結構居るの。だから、前世があるって言っても大丈夫よ。けど、ゲームの話は信用出来る人にだけ伝えた方が良いわ」


「オリヴィア様は、ゲームの事を誰かに伝えたんですか?」


「ゲームの事はウィルとサイモンしか知らない。他には誰にも言ってないし、今後も言うつもりはないわ」


「分かりました! あのぉ……オリヴィア様はサイモン推しだったんですか? なんだか、サイモンさんを凄く信用してるような気がします」


「確かに、サイモンルートが一番好きだったんだけど、ゲームの彼と今の彼は別人よ。それに、ウィルとも仲がいいし。わたくしとサイモンとウィルは幼馴染なの」


「え、ええっ?! そうなんですか?! ゲームと違う……!」


「ここは現実よ。似てる所はあるけど、違う事も多い。ゲームならサイモンもマーティンもエドワードも先生もロザリー様にメロメロだけど、今はそんな事ないでしょう?」


「それどころか、サイモンさんには物凄く嫌われてる気がしますよ。図書館でたまたま見かけたんですけど、すっごい冷たい目で睨まれました」


「ごめんなさい。きっとわたくしのせいだわ」


「へ……な、なんで?!」


「わたくしが前世を思い出したのは、アイザックとロザリー様が抱き合ってた姿を見たからなのよ。サイモンはわたくしと親しいから腹が立ったのだと思うわ」


「あああ……! ごめんなさいっ!」


「謝らないで。貴女には感謝してるの。ね、お互い敬語はやめない? ね?」


「……え、良いんですか?」


「2人で話す時だけ。お願い!」


「くっ……か、可愛い……! あーもう分かったわよ! ならふたりの時だけオリヴィアって呼ぶわ!」


「嬉しい! わたくしもロザリーって呼ぶわね。これからのこと、話し合いましょう」


「分かったわ。もぉ! 悪役令嬢可愛すぎでしょ! アイザックと並んだら最高のスチルになるわよね。あの目つきの悪い悪役令嬢様は何処に行ったのよ!」


「毎日毎日あんな過酷な教育させられてたら目つきくらい悪くなるわよ!」


「……マジで?」


「マジよ。でも、ロザリーは古代語が出来るから大丈夫。あとはマナーと貴族の顔と名前を覚えればいけるわ。最悪、貴族の顔と名前はアイザックが全部覚えてるから覚えなくても良いし! マナーもわたくしが教えるわ。だからお願い! アイザックが好きなら王妃になって!」


「そりゃ、オリヴィアが良いなら嬉しいけど、王妃って何するのよ」


「一番大事なのは、王家の秘密の仕事よ。代々の王妃の中には、社交は苦手で表に出ない方もいたらしいわ。そんな方でも、王家の秘密の仕事だけはしてたんですって。秘密を知る時は儀式をするんだけど、最後は王族だけで部屋に入って、代々伝わる書籍を王族の前で読むの。古代語で書かれてるから、古代語が出来ないと王妃になれないの」


「なるほどね。あたしは最低限の条件はクリアしてるって事か」


「そ、あとは言葉遣いとかマナーだけど、男爵令嬢なら少しは習ってる?」


「それがさ、聞いてよ! 特待生試験に合格した日に怖い貴族様が来て、あたしを養女にするって言い出したの! 両親は断ったんだけど、お店を潰されそうになって仕方なく養女になったわ。その時、ショックで前世を思い出したの。あの貴族マジでクズでさ、あたしは見た目が良いから高位貴族を引っ掛けろって。ダメだったら愛人にするって。だから教育なんて受けてないの。平民クラスなら基礎から教えて貰えるのに、貴族クラスはマナーは分かってる前提で授業するじゃん? だからちんぷんかんぷんでさー……」


「はぁ?! 酷いわ! 許さない……! 安心して、男爵家ならどうにでも出来る。すぐ助けてあげるわ! なんにもされてない?」


「うん。大丈夫。高位貴族を狙わせるから手は出せないって言われたわ。卒業したら愛人にするって言われたけど今のところ手は出されてない。寮で良かったわ。学園を出なければ安全だから。だから入学してから外に出てないの。休みの日は帰って来いって手紙が来るけど、いきなり貴族クラスに入れられて補習しないとついていけない。落第して男爵家の評判を落として良いなら帰りますって返事したら手紙が来なくなったわ」


「やるわね。学園は部外者は入れないし、警備も厳重だから滅多な事は起きないわ。男爵家なら使用人の同伴も許可されてないし。入学してからシナリオ通りアイザックと仲良くなったの?」


「そう、出会いとか全部ゲームのまんま。最初は楽しかったんだけど、シナリオみたいにオリヴィアが虐めて来ないし、それどころかルートにない平民クラスに行っちゃって……だから、怖くなってアイザックに近寄るのをやめたの」


「やめないで! アイザックが好きなら仲良くしてちょうだい!」


「だって、オリヴィアはアイザックを愛してるでしょ? 最初はゲーム感覚だったけど、冷静になると婚約者が居る王子に近寄るってヤバくない?」


「大丈夫!! わたくしとアイザックの婚約は解消されるから!」

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