第22話

理事長先生、いや、モルダー先生はすぐに平民クラスの授業を受けるられるよう試験を設けてくれた。覚悟を問い、誓約書まで書かせるので希望者は少ない。向上心のある者だけが試験を希望した。試験はとても難しくて、合格したのはわたくしとエドワードだけだった。


まさか、古代語のテストまであると思わなかった。実は古代語はわたくしが前世で使っていた言語と酷似している。厳しい王妃教育でも半分読めれば合格点を頂けたのに、前世を思い出してからはスラスラと読めるようになった。


おかげで、なんとか合格出来たわ。エドワードもギリギリ合格だと言っていたし、合格点は高めに設定されていたのでしょうね。


試験は2ヶ月に1回行われる事になったので、希望者は何度でも試験を受けられる。アイザックやロザリーも受けていた。マーティンも受けたそうだが、惨敗だったと言っていたわ。けど、アイザックが平民クラスを望む限り彼は何度でも試験を受けるだろう。案外、アイザックよりもマーティンの方が早く合格するかもね。彼はこうと決めたら真っ直ぐ突き進んでいくから、2ヶ月間で猛勉強すると思う。


そのうちアイザック達も平民クラスに来るかもしれないが、しばらくは登校しても顔を見なくて済む。学園はあと半年程度。試験のチャンスもあと2回くらいしかない。酷いと思うけど、アイザックだけは合格しないで欲しいわ。


朝から平民クラスに登校するので、貴族の方と交流出来なくなるが、わたくしにとってはラッキーだ。だってどうせ貴族ではなくなるのだもの。アイザックも、わたくしが居ない方がロザリーと仲良く出来るでしょうしね。


わたくしが平民クラスを望んだ事で婚約解消は既定路線だと貴族達は思っている。ロザリーに媚びを売る貴族が増え、わたくしを訪ねる貴族は居なくなった。仲の良かった子達は、気を遣ってくれてるんだと思うけど他の人はどう思ってるか分からない。けど、勉強に集中出来て助かる。なにせ、どれだけ勉強しても時間が足りないのだから。


平民クラスのモルダー先生の授業は素晴らしいの。生徒達は、授業中は理事長先生なんて呼ばない。みんなモルダー先生と名前で呼ぶ。貴族であるわたくしとエドワードは最初は遠巻きに見られていたが、真剣に授業を受けていると次第にクラスメイトとして受け入れて貰えるようになった。ウィルやサイモンとも休み時間に話せるようになり、楽しい。学園内では特別扱いはしないと先生が宣言してくれたおかげで、みんなと対等に話せるようになり、お友達も出来たわ。みんな、お互い呼び捨てにする。気を遣わなくて良い関係は居心地が良い。


どの授業も楽しいが、特に経済学の授業はとっても楽しい。サイモンに負けないように勉強したらわたくしも追加点を頂けるようになった。勉強すればするほどスルスルと頭に入るから、前世の得意分野だったのかもしれない。他の授業もとてもレベルが高い。気が付いたら、夢中で学ぶようになった。ウィルは朝早くから図書館で勉強しているから、わたくしも早めに来て勉強する。次第にサイモンやエドワードも参加するようになり、早朝から有意義な時間を過ごしている。


この間、モルダー先生にアイザックから謝罪はあったかと聞かれたわ。平民クラスに移ってから一度も顔を見ていないと言ったら、とても怒っておられた。


慌ててアイザックに手紙を書いて婚約解消を願った。だけど、返事は来なかった。代わりに、マーティンが寮に訪ねて来たわ。きちんと侍女を連れて、2人きりにならないように配慮してくれるのはさすがだ。


「オリヴィア……その……殿下はオリヴィアに会わせる顔がないと仰っていて……」


「婚約解消したら仕事をさせられないからよね。学園に在学してる間は休みにお仕事をするからさっさとわたくしを捨ててくれないかしら。でないと、誰も居ない寮に帰らないといけないじゃない。さっさと平民寮に移りたいのに」


あれから、サイモンの策略によりわたくしの侍女は解雇になった。修羅場だったらしいわ。お父様は泣きながら一方的に解雇を言い渡したらしい。今まで目溢ししてたのは自分のくせに、わたくしの予算で自分の物を買うなんて犯罪だって言ったらしいわ。主人と愛人関係になり、横領するような侍女はどこにも雇って貰えないだろう。父は新しい愛人探しに夢中で、侍女の補充はない。だから、誰も居ない特別寮に帰らないといけない。気楽で良いが、少し寂しい。お友達を呼びたいけど、一応わたくしはまだアイザックの婚約者だから目立つ事は出来ない。すぐ隣にアイザックが入る特別寮があるしね。だから、寮は1人で過ごすしかない。


母は、家に帰らず別荘で暮らすようになったらしい。表向きは父の不貞にショックを受けて療養していると言っているが、どうやら母にも愛人がおり、別荘でよろしくやっているそうだ。離婚すれば良いのに、離婚した夫婦の娘では王妃になれないからと離婚をしない道を選んだんですって。父のやらかしでわたくしの評判も下がったが、他に王妃の適任者が居ないから婚約解消を言い出す人は居ない。


国王陛下が婚約解消を命じて下さるか、アイザックが婚約解消と言い出さないと現状は変わらない。もういっそ婚約破棄でも良い。アイザックと結婚したくない。


「その……オリヴィアは本気なのか……? あんなに殿下を慕っていたじゃないか」


言いにくそうにマーティンが問う。


「あんなに愛し合ってる姿を見せつけられたら、100年の恋も冷めるわよ。マーティンなら、婚約者があんな事しても許して婚約を継続する?」


「……無理だ。私に婚約者はいないから想像する事しか出来ないが、許せる裏切りの範囲を超えている」


マーティンは、アイザックの名を呼ばなくなった。わたくしも、エドワードもだ。


その事に気が付いている人は何人いるのだろう。マーティンによると、ロザリーはアイザックと一定の距離を保っているが、アイザックがロザリーに縋っているらしい。……引くわぁ。


そうそう、ロザリーの古代語の成績が良いと聞いたので彼女も前世持ちかもしれないと思ってる。話したいけど、アイザックと会いたくないから近寄れない。わたくしがロザリーを害したと冤罪をかけられても困る。


実は、エドワードには前世の事を話せたけどマーティンには話せていない。だって、マーティンはアイザックから離れない。アイザックの顔を見たくないんだもの。


今がチャンスなので、マーティンに前世の話をする事にした。

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