小ネタ『カード交換』ツグミ・ギアの場合

 ツグミはどちらかというとがっしりとしていて、体が大きく体格がいい。ついでに、声が大きい。兄弟の中でも一番大きいし、自己主張も激しい方だと自覚している。

 対するジーンは、どちらかといえば痩せていて小柄で、感情が読み取りにくいほどに物静かである。はっきりと物を言うが、その声は決して強くはない。

 先日、リョウの家に行った時に、フェリアとカイとジェイクとナディーン、アスラと妻のエリーと娘のエリーザが揃っていた。子どもたちで遊ぶとなった時に、3歳になったジェイクとラヴィーナと、8歳のエリーザ、9歳のレオーネは、最初はツグミと活発に遊んでいたが、そのうち疲れたラヴィーナがジーンの膝に座り、眠くなったジェイクがジーンの隣りに座ってもたれてうとうとしだし、エリーザとレオーネもなんとなくジーンのそばで本を読んだりし始めた。

 ついでに、リョウから食事を作っている間リラを預かり、ナディーンの眠っているベビーベッドもそばに置いて、いつの間にかジーンの周囲は子どもに囲まれていた。


「彼は、子どもを引き寄せる能力でも持っているのか?」


 アスラの問いかけに、ツグミは椅子に座ってコーヒーを飲みながら肩を竦める。


「不思議な雰囲気を持っているよね」


 小さく笑ったハンは、ジーンに抱っこされて嬉しそうな娘を見ていた。


「害がないのが分かるんでしょ」


 呟いたのはアケビで、それに一同は納得する。


「ジン、はっぴばすで、して!」


 部屋に置いてあったピアノを指差して大きな声を出すラヴィーナに、ジーンはリラの背中を撫でながら、小首を傾げた。


「今日誕生日の人はいない」

「はっぴばすで、したいのー! ふーするのー」


 お誕生日ごっこのためにピアノを弾いてほしいと言うラヴィーナに、真面目に答えるジーン。笑いながらハンが近寄って、リラを受け取った。


「毎日、世界の誰かの誕生日だよ。弾いてあげたら、リラも喜ぶ」


 言われて、ジーンはラヴィーナを膝から下ろして、ピアノに向かう。素早くレオーネがやってきて、椅子を並べて横に座った。


「じゃあ、Dから」


 長調を指定するジーンに、レオーネは頷いて鍵盤に指を置く。

 曲が響いて、ラヴィーナが小さな両手を打ち合わせて歌いだすと、ソファに横になって眠っていたジェイクが飛び起きた。


「ケーキ?ケーキくるの?」

「これは……買ってこないといけなくなったか?」


 にやりとしたフェリアに、カイが「車を出そうか?」と鍵をポケットから取り出す。


「一年前は、何者かと思ってたけど……すっかり馴染んだね」


 料理を運んできたリョウの呟きに、ツグミは我がことのように嬉しくなった。

 何もかもを急ぎ足で進めてしまった気がしていたが、形式にこだわるようだが、ジーンの家族になりたいと思ったから。


「時々は預けてもいいんだからね」


 リョウに声をかけられて、ツグミは頷く。子どもたちに懐かれるジーンだが、やはり、独り占めにしたいという時はあるのは、自分もまだ大人になれていないのだろうなと、苦笑しつつ。




後日談『ハートのQ』ツグミ・ギアの場合


――ハートのQはスペードA オールマイティに勝つ。



 ツグミ・ギアは、若い。警察官で体力はあるし、普通の成人男性並みの欲望はある。

 対するパートナーのジーン・リードはやや年上で、どちらかと言えば淡白な性格である。

 忙しく仕事をするジーンは、大抵疲れ切っていて、帰って来て食事を摂ってシャワーを浴びたら眠ってしまう日々が続いていた。新婚なのだし、触れ合いたいという気持ちはあるのだが、食事の最中でも眠ってしまいそうな風情のジーンを見ていると、さすがにツグミも何も言えず、ただ抱きしめて眠ることしかできない。

 その反動として、ジーンが早く帰って来て、次の日が休み、などというときには、ツグミはつい、ジーンに無理をさせてしまう。


「これ以上は……ツグミ、待って……」

「ジーン、もう一回だけ」

 囁きかけて、キスをして、もう一度で止まらないのを分かっていながら、ツグミはジーンを抱く。かすれた声が、涙混じりになっても、ただ愛しくて止まらない。

 ぐったりとベッドに倒れ込んで、気絶するように眠っているジーンの髪を撫でて、ツグミは白い額にキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナポレオン 秋月真鳥 @autumn-bird

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ