幕間『ジョーカー請求』レオーネ・ブローシュの場合

 エルバート・チャーチは、クラスの中でも体の大きな男子だった。転校してきたレオーネがみんなと違うお弁当を持ってきていたり、里子であったりすることを、興味深そうに聞いていたので、体付きもごく普通で強そうとはとても言えないレオーネは、彼にかなりの警戒心を抱いていた。

 いつものように昼休みにお弁当を食べていると、エルバートが近寄って来て、マシュマロサンドイッチを食べながら、レオーネのお弁当を覗き込んで来たので、とうとう、対決の時が来たかと、レオーネは咀嚼していたチキンナゲットを飲み込んだ。7歳の時から二年間、数か所に里子に出された経験のあるレオーネは、学校を変わるのも、そこで目を付けられるのにも、慣れきっていた。

 望むのはただ一つ。できるだけ怪我をしないように、させないように、ツグミやジーンに迷惑がかからない解決方法を選ぶこと。


「レオーネ、お前のところ、どっちとも男なんだって?」


 そこから攻めてくるのかと、レオーネは毅然と顔を上げた。


「そうだよ。どっちも優しくて強いお父さんだよ」


 負けるものかと垂れ気味の青い目を必死で釣り上げると、エルバートがレオーネの机に突っ伏す。


「俺のところ、どっちも女なんだよー! めちゃくちゃ怖いんだよー! 羨ましいよー!」


 嘆くような物言いに、レオーネは全身の緊張を解いた。どうやら、絡まれているわけではなさそうだと、ようやく思い至る。


「どっちもお母さんなの?」

「そう。嫌いじゃないんだけど……怒るとむちゃくちゃ怖いんだ。二人とも、すっごい美人なのに、目とか吊り上げて……」

「そうなんだ。僕のところは、怒られないけど、難しいことをいっぱい言われたりする。大人扱いされてるみたいで、嬉しいんだけどね」


 ほっとして微笑んだレオーネの手を、エルバートが握りしめた。


「今度、お前の家に遊びに行かせてくれ! 夏のキャンプ、参加するか? 俺、母ちゃんたちと参加するから、お前の父ちゃんたち、誘えよ!」


 父親というものに、強い憧れを抱いているらしいエルバートは、レオーネの里親が警察官でどちらも男性ということに強く惹かれていたらしい。



 次の週末に、遊びに来たエルバートに、「レオーネが友達を連れてきた!」とツグミとジーンとリリアが喜んだのは言うまでもない。

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