番外『セイムツーの有無』

――セイムツーとは、初手以外で、全部の場のカードの柄が揃った場合、最弱である二が勝つというルールである。

――セイムツーはスペードのAオールマイティには勝てない。



「え? アスラとヴァルナって、二人兄弟じゃなかったの?」


 ユーリ・ギレリスの問いかけに、白い髪の男は薄く微笑んだ


「ラボのフェリア・ガーディアが、産休をとるらしいよ」

「あぁ、弟……ではないな」

「妹とも言い難いけどな」


 サキの言葉に、アスラとヴァルナが顔を見合わせた

「三人兄弟だったんだ」


 納得するサキに、アスラが首を振る。


「三人ではないな」

「トール、俺、アスラ、フェリア、ラヴィの五人だな」

「……大家族だね」


 ヴァルナの説明に、話を聞いていたサキが驚く。



 トール・ガーディア、陸軍医師、三十八歳


 ヴァルナ・ガーディア、地上警察、三十二歳


 アスラ・ガーディア、地上警察、三十二歳


 フェリア・ガーディア、警察ラボ勤務、三十一歳


 ラヴィ・ガーディア、宇宙警察、二十七歳



「フェリアを見たのか?」

「可愛かっただろ?」

「フェリアは兄弟で一番美人だからな」

「フェリアは性格もいいしな」

「ヴァルナよりはな」

「まぁ、俺と比べたら誰でもだな、って言わすなアスラ!」


 口々に年下の兄弟を褒めるアスラとヴァルナに、サキは目を見開いた。



 数日前、呼び出したのはフェリアの方で、アートとロザリンドは一緒にラボに来ていた。


「じゃあ、あんたも、気付いたのか。俺もおかしいとは思ってたんだよな。てか、兄弟で気付かないのはトール兄くらいだろう」


 緑色の目に金髪の兄弟とは全く似ていないくっきりとした顔立ちのフェリアは、ラボで出た結果に目を通したのか、サキに連絡を取って来た。身長178センチ、どちらかといえば男性に見えるフェリアだが、性別は複雑で、生まれた時にどちらとも持っていて、成人してから性別を選んで手術を受けて、今は治療を受けているらしい。


「うちの兄弟あまり似てないだろ? 母親が、実験に参加して、色んな精子で作った子どもの学力と身体能力と行動と……まぁ、あまり人道的じゃないのをやってたら、産んだ全員に愛着がわいちゃって、全員連れて逃げたというね」


 だから、トールは北欧系、ヴァルナはアルビノ、アスラは東欧系、フェリアは欧米系、ラヴィはアフリカ系とややこしかった。


「全員、自分たちが少し違うっていう自覚があったからか、俺以外、かなり過保護でお互いの結び付きが強いっていうの?」


 言いながら、アートとロザリンドを招いた休憩室で、ザワークラフト入りのホットドッグを頬張るフェリアに気付いた女性職員が、つかつかとフェリアに近付いてきた。


「ガーディア、あなた、旦那様に今すぐ連絡して、病院に行きなさい」

「旦那様って、夫婦はいつだって平等だから、様も何も、配偶者、だろう?」

「そういう問題じゃなくて、妊娠してるんじゃないのかって言ってるの!」


 彼女の言葉がラボに響いた瞬間、ガタガタと周囲が動き出す。


「ガーディアが妊娠!? すぐに、上に産休中の代わりを配備してもらおうようにしないと」

「誰か、主治医に連絡しろ!」

「主任にすぐ報告だ」


 あわただしくなる周囲に、アートとロザリンドがフェリアを見る。フェリアは額に手をやった。


「前の妊娠の時に、こういう体だから、色々面倒で……分かった瞬間から産休取らされて、ラボが人手不足で修羅場になったらしいんだよね……。折角来てくれたのに、申し訳ない」


 ため息を付いて、携帯端末を手に取ったフェリアに、アートとロザリンドは「また連絡する」とだけ告げて、ラボを辞した。


 アスラの結婚式で、ぶち壊そうとするヴァルナを他の兄弟が全員で入れ替わり立ち代わり抑えたとか、フェリアの結婚式で配偶者を殺そうとするヴァルナを、他の兄弟が入れ替わり立ち代わり抑えたとか。


「そもそも、俺が付き合うって言った時点で、相手が社会的に抹殺されなかった時点で、おかしいとは思ってたんだよな」


 警察学校のカリキュラムの一つとして、ラボ見学に来た後のフェリアの配偶者が、学生の対応に当たったフェリアに一目惚れして、その日の内に交際を申し込んで、穏やかに、「友達からなら」と答えられたのは、三年前のこと。


「俺のフェリアが……」

「お前って、アスラだけじゃなかったんだね」


 ユーリの呆れた笑い声が執務室に響いたとか。

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