幕間『正ジャックは誰?』ジーン・リードの場合

 先日の強盗射殺の件で、警察署に呼ばれていたジーンの調書を終えたロザリンドが、休憩室でジーンにコーヒーを出していた。一人で帰すのが心配だということで、ツグミの休憩時間まで時間をつぶしてもらおうということらしい。


「私のバイクがあればな」

「バイクどうしちゃったの?」


 隣りの席に座りながら問いかけるロザリンドに、ジーンは空色の目に特に感情を乗せず、「壊された」とだけ告げた。


「何それ、許せない」

「ロジー、休憩中……って、この人、例の?」


 カップケーキの入った箱を持って現れた長身の赤毛の男性、ジョエルに、ロザリンドは立ち上がった。


「そうそう。この前、手伝ってもらったスナイパーさん」

「元、だ」

「元スナイパーさん」


 即座に明るく言い直したロザリンドに、ジョエルもコーヒーを注いでジーンの隣りに座った。そして、まじまじとジーンを観察する。

 赤毛のロザリンドに、赤毛のジョエルに、赤毛のジーン。


「なんか……ツグって、結構面食いなんだな」

「あ、それ、私も思った」


 ジョエルとロザリンドの言葉に、ジーンが怪訝そうな表情になった。


「それに、二十代半ばくらいかと思った」

「遠まわしに、童顔と言われている気がする」


 眉間に皺の寄ったジーンに、ロザリンドがジーンとジョエルを見比べる。


「ジョエルは髪伸ばしてるんだよね。ジーンも伸ばしてるの?」

「いや……切らなかったら伸びただけだ」

「ねぇ、結んでもいい?」


 にぃっと笑ったロザリンドに、ジーンは気圧されたようだった。


 ジョエル、ロザリンド、ジーンと、三人お揃いでポニーテールになっているのを見て、迎えに来たツグミは説明を求めようとジーンに視線を向けたが、ジーンは何も言わなかった。


「シュシュ返さなくていいからね」


 そのままの髪形で、ジーンは部屋に帰った。


 翌日から、ポニーテールではないが、ジーンがロザリンドにもらった茶色の無地のシュシュで、下の方で髪を括ってジョギングに参加するのを見て、「あ、この人、意外と嫌じゃなかったんだ」とツグミが思ったとか。

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