第4話

 半月後、フィリオネル・ダルフォス・フォン・メイアート=デフィルシャー第二王子の誕生祭が王宮の一角で行われていた。私はなぜか第一王子の横でドレスを着させられている。


「いやあ、フィルが驚く姿を見るのが楽しみだな。」


 そう殿下が呟く。だけど私はそんな呟きを気にできる状況ではない。だって普通は暗殺に失敗した暗殺者は死ぬか、拷問を受けるかだが、私はどちらでもない第一王子の婚約者にさせられている。どういう状況だ!しかも、今日まで帰ることは許されず、また、手紙とかも無理だった。どういう顔をして父さんに会えばいいの!?


「はぁ。」

「そんなに緊張しなくても大丈夫。」

「いや、緊張じゃな……、いや、緊張かな。」

「大丈夫、俺が守ってやるから。」


 いや、かっこいい台詞を言ってるけど、この状況になったのは貴方のせいですから。


「さあ、役者も揃ったみたいだし始めようか。」


 こうして殿下は私を伴って会場入りしたのでした。



 私たちが会場に入ると、そこには豪華絢爛な誕生日会が行われていた。そこには私を睨み付ける女性がいるんですけど……。


「ああ、彼女がメリーシャだ。まあ、君が気にすることはないよ。」


 いや気になりますよ。だって睨んでるんですし。しばらくすると国王陛下が入場してくる。その案内があると王家の人間であろうと頭を下げなければならない。国王陛下の「楽にするがよい」の言葉を待ち、パーティーが再開する。


「じゃあ、始めようか。」


 そう言うと第一王子殿下が壇上に上がり、会場に響き渡るよう声を張り上げる。


「ウェルネドル公爵令嬢メリーシャ、君に婚約破棄を申し付ける!」


 殿下の声に会場は静まり返った。


「クリス殿下、どういう事ですか?」

「というか兄上、こういうことは俺の誕生パーティーでやらないで貰えないか。」


 第二王子のフィリオネル殿下が言うことは正論だけど……。


「ああ、あろうことかこの女はフィルとよろしくやってたのでな、王妃にはふさわしくない。」

「「「なっ!!」」」


 声が3つ重なった。3人目はフィリオネル殿下の婚約者だ。それはそうと、王子を暗殺しに行くのも王妃にふさわしくないと思うんですが!


「そ、そんなの証拠はあるんですか?証拠は!」


 詰め寄るフィリオネル殿下の婚約者。


「ああ、あるぞ。これがフィルとメリーシャの行為の詳細だな。いつ、どこで、何回したかも記録させた。まあ、王立学園の寮でするのはいくら俺でもどうかと思うぞ。ちなみに捏造を疑われないように国王陛下の密偵に調べてもらったものだから、このデータ自体に俺の意思の介入するところはない。そして、こっちはメリーシャの外出記録と、メリーシャとフィルのアリバイの無い時間だな。なるほど、ほとんど一緒だな。ちなみにそれぞれ別の人物に情報収集を依頼したからなメリーシャの方は学園の女子寮長、フィルは生徒会だ。みんないい仕事をしてくれた。あとで褒美を渡さないとな。」

「「うっ。」」


 言葉につまる二人。まあそれ自体は自業自得ですね。


「ふむ、そうなると二人とも国王、王妃として相応しくないな。クリスとメリーシャ嬢との婚約破棄を認めよう。そして第二王子フィリオネルの王位継承権を剥奪する。」

「「なっ!?」」


 国王陛下のお言葉に声が揃う二人。すごく気があってますね。


「陛下、私とフィリオネル殿下の婚約も破棄できないでしょうか?」

「ん?そなたは確か……。」

「はい、フィリオネル殿下の婚約者のタッタリーメ侯爵の娘、セレシアです。」

「ふむ、確かにこちらに非があるな。認めよう。」

「ありがとうございます。」


 あ、この娘したたかね。この状況下でフィリオネル殿下の継承権が無くなり、そして婚約者のいなくなった王子が目の前にいる。第一王子に乗り換えるつもりね。でも……。


「婚約者のいなくなった第一王子クリストファーの婚約者はクリスの希望通りカルネシア伯爵令嬢アニスとする。アニス嬢、クリスを裏切らぬよう精進せよ。」


 と、国王陛下の公式のお言葉で私が第一王子の婚約者となった。これには婚約者のいなくなったセレシア嬢も目が点になる。


「アニス嬢と同級のロクアより彼女が優秀で、王妃教育も順調に進んでると聞く。よって、王妃教育が終了し学園を卒業し次第クリスとの結婚をするよう命じる。」

「「ええ~~~~~~~っ!!」」


 私とセレシア嬢の声が重なる。まあ、声をあげた理由は違うと思うけど。


「へ、陛下!お聞きしたいことがありますがよろしいでしょうか。」


 誰かが国王陛下に質問をしようとしていた。どこかで聞いたことがあると思ったら父さんだった。


「おお、カルネシア卿か。アニス嬢をクリスの婚約者にすることとなった。異論は受けんぞ。」

「は、はぁ、その、アニスはその……庶子なのですが……。」

「うむ、庶子でも些細なことだ、問題はあるまい。それにこれはクリス自らの申し出だ、不問にする。」

「は、はい。わかりました。」


 父さんはそのまま引き下がった。まあ、後ろめたいことがあるからね。その筆頭が私だけど。


「そうだな、この場で宣言しておこう。わしはクリスを王太子とし、10年後の建国の日をもって退位することにする。また、クリスの側室もクリスが求めんかぎりなしとする。」

「うん、側室いらない。アニスさえいれば王太子を受け入れます。」

「うむ、頼むぞ。」

「わかりました。派閥は現状誰もいませんが問題ないです。」

「なっ!」


 声をあげた貴族が一人。


「クリストファー殿下、私どもは……。」


 どうやら殿下の元婚約者の父親みたいだ。


「他の貴族が離れている俺を王になれないと見限って他の王子に股を開く売女の一族を信用できるとでも?」

「あ、ああぁ。」

「清廉潔白な貴族などいないだろう。多少の不利益を見逃すならそれ以上の利益が返ってくるなら多少の裏切りは構わない。だが、それでもやってはいけないことがある。既にあなたの娘は限度を超えてしまったのだよ。」

「ううっ。」


 ぐうの音もでないみたいです。まあ、正論ですしね。


「あえて派閥に入れるならカルネシア卿だな。我が妃の一族が裏切ることはないだろう?それに裏切るならそれは俺に見る目がなかっただけの事、別の王族に王位を継承させる。」


 それを聞いて第二王子派をはじめとする貴族たちは目を輝かしてるけど、たぶんそうなったら王位継承するのって殿下の同母妹のロクアート殿下よ。


「ふむ、これはパーティーどころではないな、本日はこれにて解散とする。近日中にクリスの立太子の儀とクリスとアニス嬢の婚約式を行う。おって連絡する。」


 そう国王陛下が宣言されてパーティーは終了させられた。




「本当に大変だったなあ。」


 皇太子の婚約者になった後、王太子妃――――後の王妃としての教育と学業で忙しくてうっかり武術の試験で圧勝してしまってからは特に大変だった。女性初の全科目首席を取ってしまったのでそれを3年間維持しなきゃならなくて、それなのにお茶会や夜会にもでなくちゃいけない上に、暗部からの情報が私が精査することになるし、目が回る忙しさになった。


 本当に、どうしてこうなった!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の嫁は暗殺者 中城セイ @Sei_N

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ