第2話

「はあ、どうしてこうなっちゃたんだろう……。」


 私は、ため息をつきながら侍女をつれて移動した。


「まあ、仕方ないか。あの”腹黒”だからなぁ。ともかく、部屋に入ったらすぐ潰しにいきます。」


 私はそう言うと、また深くため息をつく。


「なんで、あんなのに好かれちゃったかなぁ」


 私は部屋に入り扉が閉まると、すぐドレスを脱ぎ、戦闘服になる。そして窓から飛び出し、私の主人を暗殺しに来た暗殺者5人を捕らえていく。あるものはメイドに、あるものは参加者として、そして会場周辺にいるものもいたが、難なく捕らえた。暗殺ができるということは殺さずとらえることも可能となる。捕らえた暗殺者は”影”に渡し、きっかり5分でもとの部屋に帰ってきた。


「じゃあ、お願いね。」

「はい、わかりました。」


 そう言って侍女たちが、着付けのやり直しをしてくれた。コルセットは簡易的なものになったが、それでもきつめに締める。


「さて、もうひとつの戦場に向かいますか。」


 そう言って、パーティー会場に戻っていった。



「お帰り、アニス。どうだった?」

になったでしょう。」

「そうだな。俺の嫁は最高にかわいいよ。」

「も、もう。」


 私は顔を赤くしてしまう。暗殺者に対してそれはないと思う。私はクリスに出会ったその日の事を思い出した。



 あれは3年前、私は当時第二王子の配下であったカルネシア伯爵の庶子として第一王子の暗殺のため王立学園に潜入したときだった。さすがに学園の寮なら警備の隙があると予想して、また第二王子派の権力を利用して隙を広げることに成功したらしい。私はその隙を衝いて第一王子の部屋に侵入することができた。

 王子の寮の部屋は私たち高位貴族の部屋より遥かに広く、ロビーや専用の浴室はもちろん、書斎や侍女控え室まで完備していた。寝室もなぜか2つあった。その寝室の一つに王子が眠っているはずだ。そう判断していた私は、王子のいる寝室に入り、布団の膨らみをみて、その首筋にそっと刃を当てようとした。


「ま、そう来るとは思っていたよ。」

「!」


 私は思わず声の聞こえた方を向く。だが、その方向がおかしい。それはベッドに覆い被さっている私の真上からだった。


「ぶっ!」


 思わず吹き出す。だって仕方ないでしょ。の姿なんて見たら誰だって吹き出す、間違いなく。


「失礼だなあ。」

「いや、お兄様。こんな状況で吹き出さなかったらすごいわよ。」

「なっ!!」


 そう言って私はベッドから飛び退いた。天井に王子が張り付いているので、ベッドの膨らみが物を詰めて膨らませていると思ったのと、王子以外にこの部屋にいるのに驚いたからだ。まさかその状況で膨らみが人とは思わない。それも女性だ。


「くっ。」


 私は逃げ出そうと女性を警戒しながら扉に向かった。だが、なにかにぶつかった。


「おっと、いくらなんでも俺の胸に飛び込んでくるのはどうかと思うよ。?」

「えっ!」


 バレてる!?そんな焦りで思わずナイフを取り落としてしまった私は、硬直してしまう。その隙に覆面を剥がされてしまった。


「くっ、殺「可愛い。」……はあっ?」


 えっ?なに?どう言うこと?


「俺の妻になってくれ。」

「「ええ~~~~~~。」」


 女性の声が二つ重なった。そのうち一つは私だった。


「ちょっちょっちょっと待って、お兄様。メリーシャ様はどうするんですか?彼女を第二夫人にするんですか?」


 訳がわからない。私は第一王子の暗殺に来たのに、なぜか王子の第二夫人にされそうになったり、第一王子と妹――――――って、王女様じゃない!その兄妹喧嘩のネタにされてるのーーーーーーーー!!!


「だって、あいつフィルに寝取られてるじゃん。だったら俺もこの娘を嫁にする。」

「「えっ…………ええーーーーーーー!!」」


 再び女性の声が重なった。もちろん一つは私だ。


「そ、そうなんですか?」


 思わず私は聞いてしまった。


「ん?ああそうなんだよ。まー証拠も押さえてるし、後はどのタイミングで公表させるかだけだな。そうだ、婚約破棄と合わせて結婚しよう!アニスちゃん。」

「ええーーーーーーーっ!!」


 今度は私だけが声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る