第5話
西日が差し込む夕方。マリは半泣きで自転車に乗っていた。
ずんだくんと数回話をしただけで調子に乗っていた……。何で話しかけちゃったんだろう。どうせ誰も私と話してくれない。……それどころか私を避けるのに。お母さんも私の言う事聞いてくれない。……それもそうだよね。喋るずんだ餅なんて、私もまだ信じられないもん……。でも、私はずんだくんの事信じる。だって、私にかまってくれるんだもん。きっとずんだくんが優しいずんだ餅だから、私に優しくしてくれるんだ。親切にしてくれるなら人でなくても信じなきゃ。そうじゃなきゃずんだくんに悪いよ……。ずんだくんには嫌われたくないし……。
殆ど無意識で、マリはずんだ餅のいる所まで、自転車を漕いでいた。涙を拭ってずんだ餅の所へ走る。
「マリちゃん! 今日も来てくれたのだ!」
「うん。ただいま、ずんだくん」
「おかえりなさいなのだ! 来てくれて嬉しいのだ」
「そう言ってくれて嬉しい。ねぇ、なんでずんだくんはこんなに私に優しいの?」
「そんなの簡単なのだ! マリちゃんが幸せだと僕も幸せだからなのだ! 急にそんなこと聞いてどうしたのだ?」
「いや、なんでもないよ。それよりさ、今日は、どんな話をしてくれるの?」
ずんだ餅は意気揚々と答える。
「実はもう、今日話すことは決めてあるのだ!」
マリの顔が明るくなる。
「何の話?」
「今日は、今話題の最強健康用品、水素水についてなのだ! それじゃあ今日は水素水について解説するのだ」
ずんだ餅の勢いが増す。マリは珍しく集中して、ずんだ餅の話に耳を傾ける。
「水素水って言うのは、その名の通り、水素の入ったお水のことなのだ。だけど、水素水に入っている水素は大体ヴァルアボルなサブスタンスで、この水素水を飲むことで体の中の活性酸素が水素と結合して、インクレディブルな効果が生まれるのだ」
もう、マリにはついていけない。
「へぇ。その水素水って言うのがなんか凄いんだ」
「そうなのだ! 今は殆どの人が飲んでるのだ。マリちゃんは知らなかったのだ?」
「うん。そんなこと知らなかった。……誰も教えてくれないし。皆意地悪だから……」
マリが泣き出しそうになる。
「安心するのだ! 僕がマリちゃんの知らない事を全部教えてあげるのだ!」
マリはとびきりの笑顔を見せる。
「ありがとう、ずんだくん」
「お安い御用なのだ! 早速パパとママに買ってもらうのだ!」
「でもウチ、パパいないよ」
「別にママさえいれば十分なのだ! 僕もパパしかいないのだ。親なんて一人で十分なのだ。そんなことより、早く買ってもらって飲むのだ!」
「分かったよずんだくん! ありがとう」
「どういたしましてなのだ!」
マリは、その後もずんだ餅との"有意義"な話に花が咲き、すっかり日が落ちた頃に公園を出た。いつの間にか雨が降り始めた為、捨ててあったビニール傘を取ってきてずんだ餅に被せ、急いで家に帰った。風は強く、木々が雨に打たれ喚いていた。
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