第17話 構想を練る練る

「OK、納得納得。んで、黒の騎士としてポルティスが活躍、戦争に勝利して、国を治める。めでたし、めでたし」

 自分一人、拍手するユキ。

「そう簡単には……。確かに、黒の騎士に対するアストブ側の『恐れ』は相当に強いから、黒の騎士の存在だけで、腰が引けてしまってもおかしくないけどね。たった一人の兵士で全ての戦況が決するなんて、あり得ない。でも、最終的にはツァーク・ヒネガ連合の勝利で終わる」

「途中で、黒の騎士の正体、アストブ側にばれるとか」

「それも考えているんだけど、うまく処理できるかどうか、自信ない。ばれたら当然、ポルティスの両親が危険にさらされる場面も出さなきゃならなくるし。そうなったらなったで、助けに行かなきゃ不自然。なかなか、戦争が終わりそうにないな、これでは」

「……今さら言うのも何だけど」

 少し言いにくい意見なのだが、ユキはおずおずと口を開いた。

「戦争を起こさないような設定に変えられないかな?」

「戦争を起こさない、だって?」

 声が大きくなる堂本。急に大幅な変更を持ちかけられ、狼狽している感じだ。

「じゃあ、ツァークもヒネガ族も大人しいままかい? コウティやケントと、ツァークとやレイカとのいざこざもなし? それだと、話が進まない」

「いいから聞きなさいって。ポルティスは恋人のキルティのことを思い、ヒネガ族の集められている土地――ノルデルンをよくしたいと考えてる。また、キルティと一緒に暮らしたいとも願ってるのよ。それには、白の六騎士を抜けなくちゃならない。でも、名誉ある地位のため、周囲が許さないんだな、これが。そこで、ポルティスは考えた。堂本クンご自慢の、自分が死んだように見せかける、さっきのやり方をね。計画はまんまと成功、ポルティスはキルティと一緒に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」

「……何と言うか……」

 聞き終わった堂本は、しばらくしてから、うなるような第一声を上げた。

「戦争が起こらないのはいいとして、自分のためだけに、他の白騎士五人を殺すのか、ポルティスは?」

「あ」

「そういう主人公だと、読者の共感は得られないだろうね。それに、戦争がないからには、黒の騎士は出て来ないんだよね? それだと、困るんだ。だましにくくなる」

「うーん」

 何も返す言葉が浮かばない。ユキは、ただ、うなるだけになる。

 そんな様子を見て、かわいそうに思ったのでもないだろうが、堂本が助け船めいたことを口にした。

「でも、まあ、ツァークやレイカ、コウティを切り捨ててみるのも、一つの考え方だね。物語全体としては、すっきりするかもしれない」

「……ポルティス以外の白騎士は、実はすごく悪い人達で、キルティを、その……辱めていたっていうのは、どうかな?」

 いきなりのユキの言葉に、堂本はまたも戸惑いを隠せない。

「何だって?」

「うーんとね。あとの五人は、ポルティスを仲間外れにしたがってるの。彼がヒネガ族の女と付き合っている、ただそれだけの理由で。ポルティスとしたら、キルティやヒネガ族の弁護をするでしょ。それを五人は、わざとひねくれて受け取ってみせるのよ。『そんなにヒネガの女がいいのなら、一度、抱いてみよう』ってなもんよ。うー、こんな台詞、嘘でも言いたくないな」

 自分の肩辺りを両手で抱きしめるユキ。

「木川田らしいと言うべきか、らしくないと言うべきか……とにかく、面白い。少々、テレビドラマの影響の気があるようだけど、これならポルティスが他の五人を殺す理由も生まれるな」

「黒の騎士だって、出せるんだぞ。ワルドーがこれまで制圧してきた部族の怨念と呪いによって白の六騎士は殺されたと、アストブ内に噂を立てる人物がいてさ。最初はコウティ・ワルドーも笑ってすましてたけど、黒の騎士が現れるに至って、本当かもしれないと悩み出す訳よ。頃合を見計らって、黒の騎士のからくりを知っているツァークやレイカが、父王にこう言い含めるの。『他の部族、他の民の魂も弔いましょう。そうすれば、きっと、あの黒の騎士とかいう化け物も姿を見せなくなるはずです』ってな具合に。本当に王様がその言葉に乗るかどうかで、話が広がる可能性もあるかな」

「うん、悪くない。それどころか、すごくいい感じだよ。戦争を起こしてしまうより、よっぽどいい」

 言葉とは裏腹に、堂本は、やや沈み気味の表情。それに気付いたユキは、上目遣いをする。

「あれ、どしたの? いいって言ったくせに」

「……最初の部分、書き直さなきゃならないかもしれない。そう思うと、悲しくて悲しくて」

 もう吹っ切れているのだろう。堂本は、おどけて答えて見せた。

「そっか、それがあったんだ」

 口で喋るだけで、小説が完成した気分になっていたユキは、口を半開きにして呆然とした体。かと思ったら、くくくっと笑い始めた。

「まあ、書くのは堂本クンなんだ。私が気にすることじゃない。頑張って」

「『君、書く人。僕、読む人』ってとこだな」

「何よ、それ?」

 首を傾げるユキ。

「知らない? 大昔のコマーシャルで、似たようなのがあったんだ。流行語にもなったはずだけど」

 堂本も首を傾げている。

「聞いたことない」

「おかしいなあ。有名なコマーシャルだよ」

「堂本クンって、古いことを知っているんだ。そっちに感心するわ」

「それだけ聞いてると、歴史か何かに詳しいみたいだな」

 堂本は原稿を読み返し始めた。

「さあて、どこを直さなきゃならないかなっと。とりあえず、戦争に入っていないのだから、大部分はいけると思うけど……。最初の方の、キルティの描き方だな、最難関は」

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