第5話 アドバイザー就任?

「ほほう。これ、私が昨日言った、あのモデルをモデルにしてるんでしょ」

「モデルをモデルにって、変な言い方をするなよ」

「ごまかすな。ほれ、どう見ても一緒」

 堂本の気付かぬ内に、例の雑誌を見つけ出していたユキは、原稿とモデルの写真とを、並べてみせた。

「これだけ似ているんだ。言い逃れはできんぞ、キミ」

「何で、言い逃れしなきゃいけないんだ」

「じゃあ、認めるんだね?」

「まあ」

「ふむ、やっぱり、こういうのが好みなのか、堂本クンは」

 原稿を両手で掲げ、まじまじと見つめてやるユキ。

「何か、絵の方が写真よりきれいに見えてきた」

「そりゃあ、当たり前。いくらか理想化している部分もあるからな」

 素気なく、堂本。

「誉めてるつもりなのに、嬉しがらないの?」

「最終的には、話が面白くなくちゃあ、しょうがないからな。挿し絵がうまくたって、それだけじゃあ、あまり嬉しくない」

「だったら、読んでいい?」

 イラスト原稿を元に戻しながら、ユキは聞いた。

「読んでもいいけど、その」

 と、堂本は、ユキが仕舞いかけていた裸の絵を指差す。

「そのイラストに関係している小説は、ここにはないから。それ、他人の分の挿し絵なんだ」

「なーんだ」

「僕が書いた、関係ないのなら、いくらでもある。読むか?」

「そうだね。あの、机の上にある紙の束は? あれ、小説でしょ」

「見つけてたのか。ん、まあ、あれも小説だけど、まだ書きかけだよ。新人賞に出すつもりで書いている」

「ははあ。将来、小説家になりたいの?」

「できれば。それで、書きかけでも読むか?」

「……んにゃ、いい。小説ができあがったとき、まとめて読みたい」

 ユキが遠慮したのは、途中まで読んでも、すっきりしない気がしたから。それに、かなりの分量で、短時間に理解するのが面倒臭そうだったから。

「そうか。その方が、僕としてもありがたい。いっつも、感想、親にしか聞けないでいたから」

「親に聞いてんの? 何か……」

「何かおかしい?」

「うん」

 遠慮のないユキ。続けて言った。

「て言うか、ほのぼのとしたものが……。今、思ったのは、どっちかってーと、旦那の仕事を奥さんが見て、励ましてやるって感じ」

「何だ、それ? 訳が分からないなあ」

「んと、何かの本で読んだ。漫画家のエピソードみたいなのだったと思うけど。ぴったりでしょ。それはとにかく、今度、応募するつもりなのは、私が見てあげるから、安心したまえ」

 ユキの言葉を、堂本は苦笑まじりに受けた。

「せいぜい、期待しないでおくよ」



※作者註.以下のカラオケのシーンはネタがやたらと古いです。当時を知らない方々には訳が分からない・つまらないかと思いますが、どうかよしなに。

 手直しして現代に合わせたいのですが、ネタを考えるだけの知識が今のところ足りないため、とりあえずそのまま掲載します。現代にあったネタを思い付いたら書き直すかも(可能性薄)。


 狭い部屋の中、流れるメロディ。お馴染みのCMソング。

 タイミングを取って、出だしを合わせると、ユキは口を開いた。

「カ〇ーラ ツーに乗ぉって~ そのままドライブぅ~」

「そのままかい!」

 突っ込みが入る。

「始まったと思ったら、すぐに歌が終わるシリーズでしたあ」

「ギャグはいいから、続き、歌いなって。もったいない」

 てことで、ほとんど全員による合唱みたいにして、残りを歌った。

「次、誰?」

 ユキはマイクを軽く振った。

「はいはい、私」

 イントロが流れ始めた途端、初美が手を挙げた。アニメの主題歌。未来を目指す歌詞の曲を、初恵は器用に真似している。

 これも最後には、手拍子しての大合唱。やれやれ疲れたということで、少し休憩。

「trfのこれってさあ」

 ジュース片手に、ユキは選曲メニューを指差した。

「ミーツじゃなくて、ニーズだったら、笑えるよね」

 もちろん、堂本が買ったあの雑誌の名前のことが、頭にあったのだ。

「……少年は少女を必要とする……」

 一人が直訳。一瞬の間を置いて、爆笑。

「何よー。ぶち壊し」

「『だよねー』の関西弁だったら、『そやなー』じゃなくて、『でんなー』と違う? 『そうだよね』なんだから、『そうでんな』って」

 話題は、いきなり別の曲に移る。

「バンド名の短縮もしないでほしい。たとえばほら、ミスって散るのって縁起悪い感じ。チルチルミチル思い出しちゃうし」

「えー? 思い出す方が、変っ」

「古い話けどさあ、米米の『君がいるだけで』の楽譜、書店で買おうとしたら、笑ったよう。背表紙が、『君がいるだけげ』になっていたの」※作者註.実話です

「げげ……」

「結局、そこでは買わなかったんだけど、あれ、買えば希少価値が出たかなあ」

「――そうだ、元々はカムカムクラブだったんだってね」

「えー、何で?」

「文字で書くと、Come Come Clubだったらしいの。これを、メンバーの一人が読み間違えたんだって。そのままコメコメって」

「ほんとぅ? 信じらんないけどなー」

「カールスモーキーって名前、タバコの煙のように軽い性格だから付けたんだって」

「あはは、そっちの方は、信じられる」

「あのさあ、ストツーって2だからいいけど、そのあとは変じゃない? ストスリー、ストフォー、ストファイブ……」

「だから、スト3を作らないんじゃないの?」

「あ、そのスト2の歌で、替え歌やってやろうと思ってるんだけど……『いとしこいし』って、分かる? 漫才コンビだけど」

「分からん」

「私は分かるけど、一般的じゃない」

「だめかー。じゃあ、『いといしげさと』で行くか」

「『愛しさと』が、糸井重里いといしげさと? 『切なさ』は?」

「もち、『てつや』サン。武田たけだ小室こむろかは、判断に任す。『心強さ』は、トッコロサンぐらいしか思い付かないんだよね。ところジョージ」

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