剣道(男女の友情)

 剣道は小学生の間までは平等だ


 男も女もない


 ◇◇◇

 アイツと私しかいない剣道場で、私は最強だった。


 アイツはちっちゃくて、よく泣く子だなと思ってた。


 胴の後ろの紐をよく結んであげた。面の紐は結べるのに不思議だった。


 休憩時間中に私が鏡に向かって素振りをする間、ジーっと私のことを見てた。


 初めて試合で対戦した時は、100回やっても負けないと思えた。


 私はアイツが遊んでる間も出稽古で鍛えまくった。週に4日、5日と稽古して、指導はやたら厳しくて、あっちこっち痛いし、足の皮は裂けた。それでも、先生たちに挑んで挑んで、稽古して日本一を本気で目指してやっと、小さな大会に優勝できた。


 5年生になり、道場が狭く感じるほど仲間が増えたとき、周りとズレを感じた。私に勝ちたいではなく、私を目標にする子が多いのだ。

 休憩時間中の素振りをする。みんなの視線を感じる。

 竹刀の鋭い音がする。アイツが初めて横に立った。


 アイツはめきめき強くなった。まあ、私はアイツ以上に強くなってたんだけどね。

 ついに全国に出ることになる。出稽古先に混ぜてもらった団体戦だけど。私は鼻高々にアイツに自慢しまくった。


 で、勝てないと思って負けた。初めてのことだった。


 私が磨きに磨いた面の入り、間の取り方は、先生に言うことがないと言われた必殺技だ。その面が全く持って通用しない相手が現れた。

 で、そいつは次の試合でアッサリ負けるのだ。どうやって勝てばいいのかわからない世界が広がっていた。

 さらに、身体測定で明らかに背が止まる。測るたびに3センチ4センチと伸びていたのが1センチも伸びていない。体重は憎いことに順調に増加した。

 技と体の成長が止まった。そう思ってしまった瞬間に、心は私を引きずるように沼にしずめてきた。


 アイツが私の出稽古先に来た。

 出稽古先は相変わらず厳しくて、一度全国に行ったもんだから。先生が目の色変えて指導する。

 休憩中に私はお尻をついて脚を伸ばし水分をとる。

 アイツは休憩時間中ににへばることなく立ち上がり、鏡を見て素振りを始めた。


 気づけば立って竹刀を握った。


 体がき動かされて、体がとんでもなく熱い、アイツの前で休憩中にへたり込んでいたことが、めっちゃクチャに恥ずかしかった。

 2回3回とアイツと一緒に出稽古をするたびに、自分の伸びしろに気づく、アイツに先に行かれたなら追いつき、追い抜かす為に走り続けた。


 6年の全国大会ではアイツと一緒に個人で出場を果たし、次こそ日本一に成れると思えた。


 けど、次が無いことは知っていた。中学生からは男女別の大会となる。


 ◇◇◇


 地元の小さな大会が私にとってのラストチャンス。


 日本一のアイツに勝ちたい。

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