サッカー(レギュラー≠ヒーロー)
チームは負けそうで、俺は試合に出れていない。
だが、アップする俺の心臓は強く脈打ち、緊張する。スタメンから外れチームが負けることに対してではない。
「俺が!」「俺なら!」早く俺を出せと叫ぶ心が抑えられない。
味方の大きなクリアと同時に監督の交代の指示が出る、出番だ!
俺はどんだけ努力しても、レギュラーにはなれなかった。
ただ、他の奴らがどんなけ努力しても、俺より速く走れるようにはならなかった。
フィールドの芝を一歩踏みこみ加速すると、風がいつもより強く鋭く頬を過ぎる。耳からは風切り音が消え、フィールドは狭く、プレイヤーの位置を感じるように捉える。
「絶好調」
自陣ペナルティーエリア中央付近の混戦から、仲間が大きく蹴りだすクリアボール、サイドラインを割らずに敵陣のゴールラインを割りそうな山なりの軌跡。
…と思ったであろう、そのボールに追いつく。
後半、残り時間は数分。
点差は2
相手チームの疲れと油断が俺を活かす。
フィールド切り裂く、俺を警戒するには近づきすぎたマークマンをぶっちぎる。
追いかけるほどに俺との距離を引き離す。
山なりで逆回転の効いた俺の為のベストパスをコーナーフラッグ近くで受け取る。
が、ボールが足に収まらない。ボールタッチはもともと雑、しかも全速力。それでも練習通りキーパを釣りだすように、ボールを転がすことに成功する。キーパがペナルティエリア内に入るボールを抑えに来る。
俺は絶対に止まらない。
俺はキーパーと交錯するようにボールを浮かしながらキーパーを飛び越える。
角度が無い、ゴールの確信がない。
ゴールを確認するまで止まらない。
着地、手を着き転倒に耐え、その手すら加速に使い、キーパーを置き去る。
ボールに追いつき滑り込み、ゴールに流し込む。
主審の笛でも止まらない。
ゴールに転がるボールを抱き駆ける。
止まらない、俺が勝利を決めるまで。
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