卓球(ライバルへの信頼)

 俺はシルバーコレクターだ。隣の家のアイツが金で俺が銀、それが生まれてからずっとだ、一度も公式戦で勝てていない。前の試合では追いつき、逆転し、競り合い、さらに巻き返し、マッチポイントを握るが、最後は届かなかった。


 卓球の試合は天秤のようだ。


 天秤の皿に、互いに練習で積み重ねたものを全てを載せて戦う。積み重ねるほどに強くなり、差が大きければ一瞬で決着がつく。だが、アイツに近づき差を縮めるほど、天秤は何度も揺れ動き、最後は紙一重の差で勝敗が決する。その紙一重、ほんの紙一枚を超えることができないでいる。


 次こそはと、積み上げたものが、負けた瞬間に無意味に、消え去ったように感じる。アイツの対策をすればするほど、他のヤツ等に苦しめられ、弱くなったと感じてしまう。俺が強くなっていると、積み重ねの存在を証明するには、アイツから勝利する以外にない。


 今一度、アイツに挑む。


 試合が始まり、アイツの為に準備した戦術と俺の全てを天秤に載せて先制のポイントをとる。ゆっくりと天秤が俺の勝利へと傾くが、アイツは置物ではない。こちらの戦術に対応し、変化する。天秤が揺り返す、最後の1ポイントが決まるまで揺れ続ける…


 試合は進む、0-2でゲームを取られ劣勢だ。最短で11ポイントで敗北する。


 俺はサーブの準備に入る。卓球は1ポイントごとに時が止まる。この世から離れ声援が消え、俺の指先のボールの音だけが聞こえる。目を閉じ、アイツのすべてを捉えてきた瞳に休息を与える。震えるように細かく跳ねるボールの感触が思考を研ぎ澄ます。静寂の闇に浮かぶアイツの動きから、未来を予測し、最適解を探し続ける。他のヤツ等に勝利した成功体験を信じるて逃げるな。今のアイツに勝利する為に積み上げた俺を信じて挑め。

 光が戻り、ボールをそっと掴む、鼻に息が通り肺が膨らみ、緊張を生む。視線が一瞬アイツを捉える、台につくポジション、表情、目線、汗のかき方、全てを織り込んで戦術を最終決定する。まばたきを速く2回、ゆっくりと1回、その間ゆっくり息を吐き弛緩する。この決まったルーティーンの間に、究極の自分を創り上げる。絶対の自信と確信をもって、サーブを放つ。


 が、それだけでは足りなかったのだ!


 俺はアイツを信じることにした。アイツは俺を超えてくる。1球、1球、間違いなく想像を超えてくる。俺が一番嫌がる場所へ、俺が届かない所へ打ってくる。それを信じてリスクを取る、動き始めを半瞬早く、その時だけは俺がアイツを超える。


 リスクは安定した結果を生まない。だがしかし、確実に今までの試合とは違う展開を生み出している。俺が戦術を決定し、俺が得点の主導権を握り続けている。俺がアイツに変化を強制し続けることで、天秤が激しく揺れ動く。今までの各ゲームの内容は6-11、9-11…


 勝敗が決定するのは最後の1点を取った時だけだ。この天秤を必ず俺に傾ける。俺の力で!

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