彼らは、儚くなった

 はてさて、半月ほどの時が経った。途中移動資金が底をつきかけたので現地の依頼を受けたりしたため、数日ほど余計に使ってしまった。


 幸いなことに、私がいくらか遠回りなルートを取っていることには気づいていない模様。あるいは黙っているか。どうしても最短のルートでは王都に入らなければならなかった。もう一つの敵がうようよいる場所に立ち入るわけにもいかなかった。


 王都のみならず、国内ではどこもその手の危険に満ちているので、結局は大小の程度の問題になってしまうのだが。


 護衛対象とも言える彼女は毎晩宿から窓越しの空へ祈りを捧げていた。私に不安を吐露して以降、あれほどはっきりと口にしたことはないが、祈りの様子を見ると彼女の中では日に日に大きくなっているようだった。


「皆さん、集落を奪還したそうですよ」


 だからか、毎朝新聞を買いに出かけて、勇者パーティの動向を知るのが新しい習慣になっていた。パーティの動向が書いてあれば目を輝かして紙面の一文字一文字を読み込んで、特に触れていなければしょんぼりして買うのをやめてしまう。


 勇者パーティの記事がないのに新聞を買ったのは二回ぐらいだったか。魔族領の動向を報じたものと、教会に関するものだったか。


 ある日は集落を奪還。


 ある日は復興チームという名の開拓冒険者集団を支援。


 ある日は魔族領のとある街における和平成立。


 きっと魔術師が魔術で生み出した鳥をどこかに送っているのであろう。文面はなんでも屋。国にとって心地よい言葉を並べているのであろう。内容が事実かどうかは私には分からない。少なくとも、彼女には励みになっている。


 目的のアントレー教会まで目前。隣町に到着した頃合いのことである。ある商隊の中に混ぜてもらって二回の野営。到着したのは夕日と月が入れ替わる頃合い。


 それなりの田舎であるため、静かな雰囲気を想像していた私にとっては予想していなかった騒がしさだった。商隊を率いていた商人も首を傾げていたが、しかし見知った顔を見つけたのか、商隊にはこの場に留まるよう言いつけて立ち去ってしまう。


 修道女は落ち着かない様子。あたりを見回している。


 まるで祭りのような騒ぎだった。露店が所々に店を出していて、思い思いのものを売っている様子。酒や食べ物がほとんどだったが、いくつかは勇者パーティに関した雑貨――人形やお面などを売っているようだった。


 露店に群がる人々。


 しかし一方で祈りを捧げている姿もある。教会での祈りの仕方だった。


 ちぐはぐな雰囲気だった。


 周辺の空気から取り残されたままの商隊に商人が戻ってくる。その手には丁寧に折りたたまれた新聞があって。商人の口から出た言葉は私達を強く貫くのである。


 ――勇者パーティがやってくれた。


 一番早く動いたのは聖魔法だった。襲いかかるように商人へ詰め寄ると新聞の在処を問いただす。豹変ぶりにびっくりしながら答える商人を放って新聞の元へ全力疾走。


 私は商人に礼を言いつつ彼女を追いかける。こんなに足が速かったか?


 彼女にたどり着くのはそう時間はかからなかった。彼女は地面に座り込んでいた。服が汚れるのを気にしている様子もなかった。その傍らには肩から新聞の入った鞄を提げる青年。


 彼ははじめ彼女を見下ろしていたが、私が近づけば困った目を向けてくる。


「嘘だ……嘘だ……嘘だ……」


 彼女の口からぽつり、ぽつりと言葉が漏れ出る。ごく小さな言葉が次第に大きな怒涛になり、いよいよ絶叫となる。


 思わず目をつぶってしまうほどの声。目を開ければ周囲のぎょっとした視線が集まっていた。


 ――勇者、魔王と相討ち、辛くも討伐に成功。


 私は修道女の背後から紙面を覗き込んで、彼の目に宿るものが現実になったことを知った。

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