出会いと別れ

『大往生』


 暗い部屋、弱った猫の鳴き声。リビングには一人の少女と一匹の老猫の姿。流しっぱなしのテレビでは台風警報が流れている。かっぱ姿のニュースキャスターが今にも風に飛ばされそうになりながら現場中継をしている。

 ぐったりした猫の体を毛布でつつむ少女。側には猫用のキャリーが用意してある。

 少女がスマートフォンを操作する。

 着信履歴には『丘の上動物病院、丘の上動物病院、お母さん、お父さん... ... 。』

 外で一つ大きな雷が鳴った。吹き荒れる風と老猫の顔を交互に見て、少女は泣きそうな顔をした。老猫がまた、にゃあと一度なく。


 子猫の鳴き声。子猫の視点、草むらに隠れている風景。ガサガサと誰かが近づいてくる。ピンク色の子供靴が目の前に見える。次にかがみ込んでこちらを見てくる子供の顔。


 シャーっという子猫の唸り声。びっくりして尻餅をつく子ども。そのままランドセルを揺らしながら逃げてゆく。次の日、猫用のカリカリを持ってくる子供。また次の日、猫じゃらしを振る子供。また次の日、子供と遊ぶ子猫の姿... ... 。

 嵐の中、河川敷で子猫が震えている。子猫の鳴き声と激しい雨音。懐中電灯の光が子猫を照らす。子供と二人の大人が雨ガッパ姿で近づいてきた。震える子猫をためらいなく抱き上げる子供。子猫にかみつかれ引っ掻かれてもぎゅっと抱きしめる。雨音と少女の心音。

 子猫の視界はだんだんと暗転してゆく... ... 。


 にゃあ、と老いた猫の声。あちこちに電話をかけていた少女がはっとする。老猫が震える足で立ち上がり、少女の体に体をこすりつける。そのまま、倒れるようにもたれかかる。かたん、と携帯の落ちる音、静かな雨が窓の外で降り続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編シナリオ @TUKISHIRO3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る