第5話


「お~いアイン! 大丈夫だったか?」


 アインがソフィアと自己紹介を済ませた直後。

 赤髪の少年シルバが駆け足でアイン達の元にやって来た。


「シルバ、無事だったか」


「おうよ、それよりケルベロスはどうなった?」


「まぁ見ての通りかな」


 シルバがケルベロスの亡骸に視線を移す。

 目を見開き、驚いたような声を上げた。


「おぉ! こりゃ派手にやったな。アインが倒したのか?」


「いや、僕じゃない。これはソフィアが倒してくれたんだ」


「ソフィア?」


「こんにちは。私はソフィア・エスカトル。気軽にソフィアって呼んでね」


「あんたがソフィアか! 俺はシルバ・ゴルディドール。シルバで良いぜ」


 笑顔で語り掛けるソフィアと胸をどんと叩くシルバ。

 二人はお互いに自己紹介を済ませ、握手を交わした。


「そうだアイン! もう式典が始まるぞ? それを急いで伝えに来たんだ」


「そうだったのか。ありがとうシルバ。大講堂は......向こうか。その前にこのケルベロスは......」


「そのままでいいだろ。教員達に任せようぜ」


「分かった。急いで向かおうか」


 アイン達は足早に大講堂に向かった。




 大講堂の中に入ると、自分達で最後だったのか、他の生徒は皆整列を済ませていた。

 アイン達も後ろの方で列を組み、式典の開始を待つ。


「あぶね~。間に合ったか」


「すごい新入生ってこんなに沢山居たんだね」


「あぁ。僕達で最後みたいだ」


 アイン達が列に着いたと同時に壇上に一人の男が現れた。

 男は拡声魔法を使って大講堂に声を響かせる。


「皆の者静粛に! 今から式典を始める。校長先生が不在の為、代わりに教頭であるこのダガース・ヘンドリクセンがこの場を取り仕切る」


 白髪交じりのグレーヘアー。

 中肉中背。

 自分は何者も信用してないと言うような厳しい顔つき。

 その姿は、式場を揺らす低い声も相まって威厳を感じさせる。

 アインはぐっと唇を噛み締めた。


「校長先生から預かった言付けは二つ」


 人差し指と中指を立て語り掛けるダガース。


「1つ。君たちはこの学舎で魔道を極める。それは各地で増加しつつある魔物に対抗する力をつける為だ。そして、生半可な気持ちでは魔物に太刀打ち出来ない。だから死ぬ気で、言葉通り死んでも強くなる必要がある。従って遊び半分で入学した者に用はない。すぐに学内から立ち去って貰って結構」


 会場がざわついた。

 新入生を贈る言葉にしては些か厳しい。

 死んでもなんて言われれば誰でも怯えることだろう。


 しかし、言っていること自体は正論だ。

 魔物と戦うことはそれなりの覚悟と力が必要になる。

 ここで怖じ気づくようならば、覚悟が足りてないと言う事だろう。


「そして、二つ。それでもこの場に残った新入生入学おめでとう。行き着く先は魔物の餌か人々の英雄か。私は後者であることを願っている。以上」


 言付けを言い終えたダガースが壇上を後にする。

 アインは額に汗をかく。

 それと同時に疎らな拍手が発生した。


「アイン。お前怖い顔してたけど大丈夫か?」


「大丈夫だシルバ。少し緊張しただけだ」


「何だお前でも緊張するのか! ずっと冷静そうにしてたからよ、ちょっと安心したぜ」


 シルバがガハハと笑いながらアインの背中を叩く。

 アインの強張った体がピクリと羽上がる。


「今のスピーチ私たちをわざと怖がらせようとしてたもんね。素直に入学おめでとうで良いのにね」


 眉を上げてやれやれといった表情のソフィア。

 シルバがそれに同調し首を振って頷いた。

 そんな二人を見て、アインは少しずつ気持ちを落ち着かせる。


「そうだね。こんな事で怖じ気づいてちゃいけない。学院生活はまだ始まったばかりだしね」


「そうだぜアイン。俺だってここから最強の魔大剣使いになるんだ。こんな脅し屁でもねぇよ」


「そうそう。難しく考えずに行こ。困ったら私達に相談してくれれば良いし」


「おうよ」


 アインを気遣い言葉を掛けてくれる少年少女。


 ──入学早々良い友人に巡り会えたものだ。

 今日知り合ったばかりの彼らだが、一緒にいて居心地の良さすら感じる。

 思い詰めても仕方がない。

 アインの中で渦巻いていた感情が少しずつ薄れていく。


「ありがとうシルバ、ソフィア。皆で良い学院生活にしよう」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る