第6話
式典が終わった。
蜘蛛の子を散らすように移動を開始する生徒達。
各々が指定された学生寮の部屋へと向かっている。
女子寮と男性寮は分かれており、何もなければソフィアとはここで解散だろう。
そんな中ソフィアが口を開く。
「アイン。足首を怪我してたあの子どうなったのかな?」
アインはソフィアの言葉で式典前の事を思い出す。
緑髪の少女。
酷い怪我ではないが気になる事は確かだ。
「確かに心配だ。少し様子を見に行ってみよう」
「あの子ってのは誰だ?」
事情を知らないシルバが不思議そうに尋ねてきた。
あの子とは言うが名前は聞いていない。
アインとソフィアはお互いに顔を合わせる。
先に口を開いたのはアインだった。
「あの時シルバは居なかったのか。実はケルベロスの一件で怪我をした生徒がいてね。式典前に医務室に運ばれたんだ」
「まじかよ! その子は無事なのか?」
「あぁ。足首を少し痛めた程度だったから大丈夫だと思うよ」
「そうかぁ。てっきりケルベロスに噛まれちまったのかと思ったぜ」
「そうならなかったのはソフィアのお陰だね」
頬をかき照れ臭そうにするソフィア。
「と、とにかく様子を見に行ってみよう。式典に出られなくて落ち込んでるかも知れないし。そう言う時は声を掛けに行った方がいいでしょ?」
「そうだね」
「そうかもな」
意気投合したアイン達は医務室に移動した。
「失礼します」
ノックを三回叩き、室内からの返事を確認し扉を開く。
「君たちか」
出迎えたのはグレー髪のオールバックに纏めた男。
グレイル・ラージハルトの姿があった。
椅子から立ち上がったグレイルがアイン達に近づいて来る。
「そこの君は初めてだろう。私はグレイル・ラージハルト。教師をやっている」
「シルバ・ゴルディドールっす。よろしくっすグレイル先生」
「ふむ。先ほど君達には迷惑を掛けたな」
「いえいえ、それより足首を怪我した子は大丈夫ですか? 私達心配で様子を見に来たんです」
「そうだったのか。足首の怪我の方は大丈夫だ。魔法で完治している。しかしだな......」
「何かあったんですか?」
「ふむ......」
難しい顔をするグレイル。
顎に手を置いて何かを考えている。
その顔は式典前よりも心なしか疲れているように感じた。
「どうやら精神的なダメージの方が大きかったようで、中々この場から離れようとしないのだ。本来なら式典にも途中参加出来たはずなのだが、本人が嫌がってな」
グレイルが溜め息を吐く。
「初日早々ケルベロスに襲われたんです。怯えるのも無理はないでしょう。僕達で良かったらお話させて頂けませんか?」
「そうだな。君たちに頼んでみるとしよう」
そう言って医務室の奥に移動するグレイル。
アイン達もその後に続いた。
そして一番隅のベッド。
そのカーテンをゆっくりと捲る。
「ひ、ひぃ~~~ま、また魔物!? ってグレイル先生じゃないですか」
そこにはベッドに腰かける緑髪の少女。
悲鳴を上げたかと思えばグレイルの顔を見て安心する。
「魔物が入ってくる事はない。お前が俺に医務室の門番をやらせているだろう」
「そ、そうでしたね! そちらの方は......あっ」
ソフィアの顔を見てハッとする少女。
目線があったかと思うと何度も頭を下げお礼の言葉を並べ始めた。
「ありがとうございます。ベネットは貴方に助けられました。貴方が来てくれてすごく安心しました。貴方が居なければベネットは今頃ケルベロスのお腹の中。入学初日で魔物に食べられる。死んでも家族に笑われてしまう所でした。貴方はベネットの恩人です。貴方の剣技は素晴らしい。貴方の............」
怒涛の勢いで話始める少女。
そんな彼女に圧倒され、苦笑いのソフィア。
心配していたがどうやら元気そうだ。
「う、うん。お礼はもう十分伝わったから大丈夫。それよりまだあなたの名前を聞いてない。私はソフィア・エスカトル。あなたは?」
「エ、エスカトル!? 通りで強い訳です。私はベネット・ホルダーソン。ベネットとお呼びください」
名前を聞き驚くベネット。
やはりエスカトルの名は有名なのだろう。
「僕も自己紹介をしておこう。アイン・フォーデン。アインと呼んでくれ。それと、こっちの少年が......」
「俺はシルバ・ゴルディドール。シルバで良いぜ」
「アインさんにシルバさん。よろしくお願いします。アインさんとシルバさんはソフィアさんのお友達ですか?」
「あぁ、今日会ったばかりだけど旧友のような感じさえするよ」
「そうですか......。是非ベネットとも仲良くして欲しいです」
「勿論。ベネットも僕達の友達だ」
ソフィアに対する怒涛の語りかけには驚いたが、基本的には大人しい性格のように感じる。
彼女とも仲良くなりたいものだ。
「皆、自己紹介が済んだね。今、式典も終わって皆学生寮に移動してる所なの。ずっとここに居るのも退屈だろうし、ベネットも一緒に移動しない?」
ソフィアが優しく語り掛ける。
ソフィアが来て嬉しそうにしていたのだ。
きっとこれで彼女を医務室から連れ出す事が出来るはず。
そう思っていたのだが......
「嫌です!」
まさかの否定だった。
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