第3話
アインとシルバは学院の敷地内に入る。
彼らを出迎えたのは見上げるほどの巨大な建物。
その大きさは城を彷彿とされるほど巨大で、その佇まいは圧巻であった。
そして、その周りには自分達と同じ制服に身を包む魔法使いの卵達の姿が見える。
「すげぇ! 城みたいじゃねぇか! それにここに居る奴ら全員新入生か?」
「僕もこんなに近くで見るのは初めてだ。なんと言うか......すごい圧倒された気分になる」
周りの生徒達も同じ様に学院内で目を輝かせている。
学生の本懐は勉強だが、これだけ立派な施設を見れば心は踊るものだ。
「あそこに繋がれてるでかい犬は何だ?」
そう言いながら、シルバが校内から離れた小屋の方を指差す。
視線を指先の方向に移すと、太い鎖の首輪を巻かれた三つの頭を持つ魔物がいた。
「あれはケルベロスじゃないかな。魔法によって飼い慣らされているみたいだね」
「まじかよ。あれは危なくないのか?」
「どうだろう......鎖で縛られてるし、近づかなければ害はないと思うよ」
魔法学校では魔物をより詳しく知るため、魔物学の授業が存在する。
授業内容次第では本物の魔物を使う事もあるだろうし、あれもその類いだろう。
鎖で繋がれてるから安心できるが、元は獰猛な魔物だ。
まだ成熟していない新入生が相手をする事になると──想像するだけでも恐ろしい。
そこは大魔術学院の肩書きと教員の管理に任せるしかない。
「大丈夫だとは分かってるけどよ。何だかずっと俺達の事睨んでいて落ち着かないぜ」
「あぁ。飼い慣らされているケルベロスにしては少し気性が荒いな。刺激しない為にも余り見つめない方がいい」
「そうだな。まだ式典まで時間もあるし適当にぶらぶらしようぜ」
そう言ってシルバと学院の建物を見学してから数十分。
人の数も増えてきた。
そろそろ予定の時刻になる。
見学も見切りをつける頃合いだろう。
そう思っていた矢先。
突然、女生徒の悲鳴が響き渡った。
「キャーー!」
アイン達は反射的に悲鳴の方向に振り返る。
そこには鎖で繋がれていたはずのケルベロスの姿があった。
「ケ、ケルベロス!?」
「なんで野放しにされてるんだよ!」
「まだ魔法を習ってない俺達が勝てるはずがない。......こ、殺されるぞ」
「逃げろーー!」
広場は阿鼻叫喚。
ケルベロスから距離を取ろうとする学生達で溢れかえっていた。
「おい! どうするよアイン!」
「今は取り敢えず安全な所に移動して、教員が来るのを待つしか......」
その時、逃げ惑う学生達の中で一人取り残された少女を発見する。
少女は腰が抜けたのかまともに立つ事が出来なくなっているようだった。
そんな少女にケルベロスが少しづつ近づいていく。
「くそ......!」
「お、おい! アイン危険だぞ!」
頭より身体が先に動いた。
アインは逃げ惑う学生達の波を掻き分け少女の元に向かう。
「ひ、ひぃ~~~!」
後少しで魔法の射程に入りそうな所でケルベロスが飛びかかった。
アインは詠唱を始めるが一歩届かない。
「逃げろ!!」
アインの叫びと共にケルベロスの牙が少女を捉える瞬間。
少女とケルベロスの間に入った残像のような人影。
「疾っ──!」
少女に噛みつかんとしたケルベロスの牙が甲高い音と共に弾かれる。
そこには背中に刀を構える白髪の少女の姿があった。
「あっ......」
「安心して。もう大丈夫だから」
ケルベロスを押し返して、少女が呟いた。
そして、流れるように腰に帯刀したもう一つの刀を抜き取る。
そのまま、怯える少女を庇うようにケルベロスの前に立ちはだかった。
「これは催しか何かかな? 催しにしてはやり過ぎな気がするけど。君には悪いけど、これは見逃せないな」
先ほどの笑みを浮かべていた表情は引き締まり、その双眼はケルベロス一点を捉え......
「だから斬るね」
──瞬間
纏っていた優しげなオーラが消し飛ぶ。
少女に修羅が宿った瞬間だった。
彼女は深く息を吸い込み、姿勢を正す。
右手の刀を上段に構え、左手の刀は中段に。
「ガウゥッ!」
ケルベロスが再び飛びかかる。
それと同時に白髪の少女も地を蹴った。
少女の中段に構えた刀がケルベロスの牙を捉える。
金属と牙が擦れる高い摩擦音。
噛みきらんとするケルベロスを軽々と往なし、猛獣の牙は空を切った。
「グルァ!?」
身体を捻り、深く踏み込む少女。
そのがら空きになったケルベロスの頭部に上段の刀を振り落とす。
一寸の狂いもない美しい軌道。
ドサッと言う生々しい音と共に一頭の首が切り落とされる。
「ギャウッー!」
悲鳴を上げるケルベロス。
しかし、少女は止まらない。
振り切った右腕の力をそのまま遠心力に変えて一回転。
力を増した二つの刃が再びケルベロスを襲う。
「ガ......」
それは一瞬の出来事だった。
その場には頭を全て落とされたケルベロスの亡骸。
そして、刀に付いた血を振り払う白髪の少女だけが取り残された。
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