第2話


 見上げるほど巨大な校門。

 その学院までを繋ぐ長い一本道。

 その道の端には様々な魔法植物が植えられており、各々新入生達を歓迎していた。

 そして、新入生にやたら絡んでいる植物の姿も目に入る。


「魔ーくれくれくれ! 魔力くれ! お前らのみみっちい魔力全部くれ!」


 ふと腕を捕まれたような感覚。

 視線を腕に向けると、植物の蔓のようなものが巻き付いている。

 蔓の先を見れば、口の付いた巨大な花の姿があった。


「マクレ草か」


 マクレ草。

 一部を除き大陸全土の至る場所で見られる魔法植物の一種だ。

 彼らは人間と同じ言葉を話し、人間の子供程の知性を持つ。

 そして、生きる為には魔力が必要であり、大気中の魔素を吸い取るか、他者から魔力を流して貰う事で寿命を伸ばす特性も持つ。

 この特性を活かし、マクレ草はペットや使い魔のように扱われる事が多い。


 きれいに配置された彼らを見るに、きっと人々がわざと植えたものだろう。

 人々は魔力を供給し、マクレ草は人々に付き従う。

 このような共生関係を保ちながら現代まで彼らは分布を広げてきたのだ。


「魔力をあげるから放しておくれよ」


 アインは捕まれた右手から魔力を注ぎ込む。


「ん......! 魔力きた......。お前いい奴?」


「まだ足りないみたいだな」


 アインは先ほどよりも強く魔力を流した。


「んん! しゅき......もっとくれ......」


「あぁ、それじゃ全力でいくよ」


 アインの右手が青白く発行する。

 それと同時に大量の魔力がマクレ草に流された。


「あ、あぁ!! お前......大しゅき......」


 マクレ草はすっとアインから蔦を放す。

 先ほどの威勢は何処に行ったのやら、とても汐らしくなったマクレ草。

 現金な奴だなんて思うかもしれないが、これが彼らなりの生存戦略なのだ。


「あんまり他の新入生を怖がらせちゃダメだよ? 皆緊張しているからね」


「はい......お前大しゅき......お前の言うこと聞く」


 こう見れば可愛いものだ。

 アインはマクレ草の花弁を優しく撫でた。


 ──自分に従順な使い魔か。

 人間の特性を良く理解している。

 進化の過程で何があったのか。

 この様子を見れば想像に難くない。


「あ~~! なんなんだこいつら! 俺はお前らに用はないっての!」


「チョーダイ! 魔力チョーダイ! 魔力チョーダイチョーダイ!」


「ベ、別にあんたの魔力なんて欲しくないんだからねっ!」


 アインは声の方に視線を向ける。

 そこには二匹のマクレ草に絡まれる大柄の少年の姿があった。

 アインは苦笑いを浮かべながら、少年を助けるべく近づいた。


「マクレ草にモテモテだね。君は不本意みたいだけど」


 アインは両腕で二匹のマクレ草を掴み魔力を流す。


「アッー! 魔力イッパイ! 魔力イッパイイッパイ!」


「あ、あんた何かの魔力! 嬉しくなんてないんだからっ!」


 そう言いながら、マクレ草達は少年から蔓を放した。


「すまん助かった。初めて見た植物だったもんで困ってたんだ」


 アインは少年を見る。

 赤色の無造作に揃えられた短髪。

 自分より一回り大きいであろう体格。

 自身の背丈ほどの太い剣を背負っており、一目で大剣使いだと分かる。

 そのニカッとした笑みに親しみやすさを覚える。


「それは良かったよ。先ほどの言動からするに、君はガルド地方の出身かな?」


「おう! 俺はガルド地方から来たシルバ・ゴルディドールだ。気軽にシルバって呼んでくれ」


「僕はコーネル山脈の向こうから来たアイン・フォーデン。同じくアインって呼び捨てで呼んでくれると嬉しい」


「わかった。よろしくなアイン!」


 アインとシルバは握手を交わした。


「で、この変な花はなんなんだ? いきなり腕を掴まれてよ。こんな植物俺の土地にはいなかったぜ?」


「あぁ、それはマクレ草って言う魔法植物なんだ。魔素の少ない土地には基本的に生息していないからガルド地方にはいないかもね」


「なるほどなぁ。俺の地方にはバカでかいサボテンばっかりでよ。こんな植物初めて見たもんだから、ビックリだったぜ」


「バカでかいサボテンも気になるけど......。取り敢えず魔力を流してみると良いよ。面白いものが見れると思うから」


「魔力をか?」


「目一杯注ぎ込んでやるといい」


「何が起こるんだ? まぁアインがそう言うならやってみるか」


 シルバは不思議そうな顔をしながらマクレ草に触れる。

 そして、魔力を注ぎ込んだ。


「 「しゅ、しゅき~~!」 」


「なんだこいつら!?」


 魔力を込めた途端媚びるような態度を取るマクレ草。

 シルバは顔をひきつらせながらアインの方を向く。


「マクレ草は魔力を流してくれた人に付き従う特性があるんだ。だから魔力を貰うために君に絡んでいたんだと思うよ」


「はぁ~。なんだそれ。現金な奴らだな」


「まぁそこがチャーミングなんだけど。でもあまり長居はしない方がいい。魔力が空になるまで絡まれ続けるかもしれないからね」


「それは怖ぇ......早く学院内に入っちまおうぜ」


 マクレ草を嫌そうに見つめるシルバと共に、アインはフラワーロードを足早に通り過ぎるのであった。


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