第4話

……あら剣斗おはよう!遅かったのね。朝食できてるわよ。


 おはよう母さん…何だか変な夢見ちゃってさ


 ……兄貴おそーい。もう少しで兄貴の分まで食べちゃうとこだったよ


 そんなに食べてると太るぞ亜美。あとこの前俺のプリン食べたたろ。弁償しろ


 ……育ち盛りだからいいんですぅ。プリン程度でみみっちいぞ。兄貴のケチ


 そうか。それなら仕方ないじゃあ代わりにこれをもらっとこう。




 妹の皿のウインナーを口に放り込む


 ……あーーー!私が最後に食べようと思ってたのに!!!うぅぐすっ母さーーーん


 ……あぁもう!剣斗はお兄ちゃんなんだから馬鹿なことしないの!亜美は母さんのあげるから機嫌治しなさい


 ……ぶぅーー


 もうわかったよ…母さん、俺の分も亜美にやってくれ。俺が悪かったって


 ……ニヤリ


 お前計算ずくだな。そんなんじゃ嫌われるぞ?


 ……嫌われても成し遂げなければならないことがあるのさ!それに兄貴は私を嫌わないでしょ?


 大した自信だよまったく…


 まるで映画のように流れる風景を俺は見ている。


 何度も繰り返した日常の記憶


 何で俺は、こんな夢を見てるんだろう


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「………………」


「目が覚めましたか。相変わらずお早いお目覚めで。お気分はいかがですか?」


 目覚めとともに聞こえてきたのはクオリと呼ばれていた茶髪メイドの声だ。


「最悪…でもないな……よく眠れたよ畜生」


「(倍の時間は眠れる量だったんですけどね。)」


 俺にしか聞こえないほどの小声でとんでもないことをつぶやく。


「食事はどうされますか?」


「今の言葉聞いて食べれると思うのかよ……あれからどのくらいたったんだ?ニコライさんは?」


 あんなことがあった後なのにこのメイドは無表情の平常運転だ。


「一日半といったところですね。父はまだ休んでいます。(下手なこと口に出せば殺しますよ)」


 あれ3日も眠れるやつだったのか。…だがこのメイドはニコライさんのことも俺のことも殺そうと思えば殺せたはずだ。そうしなかったということは俺に利用価値があるとかそういうことだろう。


「あなたが寝ている間、陛下よりお呼びがかかりました。予定は本日正午になります。それまでは好きに過ごしてください。」


 落ちていたスマホを見たらまだ朝の6時だった。まだそれなりに時間があるようだ。スマホ、あの騒ぎの中壊れてなくてよかったな


「…あぁわかった。」


 王様に会って全て聞こう。なんで俺はこの世界に来たのかとかこのメイドのこととかこれからどうするのかとか聞きたいことは山程ある。


 あぁ喉が乾いた。でもあの茶髪メイドの出す飲み物は危険だ。何が入ってるかわかったものではない。……美味しいけど。


「飲み物はよろしいですか?多分飲んでたほうがいいと思いますよ?」


 俺の心を読んでいるかのような発言だ


「………そうだな。何も入ってない水ならいただこうかな!」


 俺の精一杯の皮肉だ


「…………かしこまりました」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それからピッチャーに入った水が出てくるまでそんなに時間はかからなかった。


 その水が2つ用意された透明なグラスに注がれる。


「どうぞ。何も入ってない水です。選んでください」


 皮肉返しなのかやたら何も入ってないを強調してくる。


「……じゃあ…こっちで………」


 選べということで適当に選んだが、選ばれなかった方のグラスはメイドが飲み干す


 毒見ということだろう


 特に異常は無いようだ。俺は自分のグラスに目を向ける。


 無色透明で香りもない。ただの水に見える。


 …果たしてこれを飲んでいいものか


 そこでふと疑問が湧く


「…なぁここで食べた食事、俺が警戒して食べなかったらどうなっていたんだ?」


「あの時も私が毒見する予定でしたよ?何も乗ってない皿があったでしょう?普通はそれに少量ずつ料理を乗せて毒見させるんですが、止める間もなくあなたが食べてしまわれたのでまぁいいかと。」


 あれか!取皿かと思ってたわ!てかそれならこの毒見も意味ねぇじゃねえか畜生


「くそっもう何もいらないから一人にしてくれよ!」


「かしこまりました。……時間まで、ごゆるりと。」


 茶髪メイドが去る。結局水はお預けだ。


「はぁ」


 ベッドに横になり、スマホに手を伸ばす。俺が昏倒させられる前からずっと電源がついたままになっていたはずだが電池はほとんど減っていなかった。


「電波が無ければこんなものなのか?まあいいか。ん、なんか通知があるな」


 電源がつくことに安心して見ていなかったが端っこに通知が出ていた。


「これはツイッタグラムだな。」


 ツイッタグラムを開くとあの黒い玉の画像に一件だけコメントがついていた。


 こちらでは電波がないだろうから俺が落ちる寸前のあの一瞬でついたのか。俺はコメントを開く。


『黒色無双乙www』


 いや、早朝にこんなくだらねーこと書いてくる方が乙だよほんと。


 でもこのフォロワー、俺のくだらない投稿にはちょいちょい反応くれるんだよな。




「一体誰のサブ垢なんだろうな」




 時間が立つのがすこぶる遅い


 まだ起きてから一時間ほどしか経っていないのか


 俺はこのままここにいていいんだろうか?


 あの茶髪メイドは明らかに危険だ。もし状況が変われば確実に俺を殺すのだろう。そのために俺の近くにいるのだ。


 俺はベッドから起き上がる


 なんだか頭がグラグラする。脱水か?


 とりあえずここにいてはいけない。


 チリリリン


 俺はテーブルのベルを鳴らす


「お呼びでしょうか?」


 すぐに茶髪メイドが来る。


「偉い人に会うからな、風呂に入りたい。準備してくれないか?薬草とかは無しでいいから。」


 自然な理由のはずだ…通るか?


「………。かしこまりました。準備をしてまいります。」


 良し通った!


 俺につくメイドはこの何故か茶髪一人。準備しに行く一瞬の時間ならば抜け出せるはずだ!


 茶髪メイドが部屋から離れていく気配を確認した上でドアノブに手をかけ、開く方に力を入れる


 鍵は………バキッ………え?壊れっ、え??


 扉が壊れた。


 そして扉の警備していたであろう兵士と目が合う


「なっ!?貴様!部屋へ戻れ!戻らなければ……おい、お前はクオリ様を、ここは俺が」


 兵士の一人が震えた声でこちらに槍を突きつけ、もう一人は慌ててどこかへ走っていく


「ち、ちがうんです別に壊すつもりはっ」


 手を上げて無害であることを示すが槍を下ろしてくれる気配はない


「下がれ!ゆっくりだ……!」


 大声が頭に響く


「やめてください!俺何もしませんから!……うっ」


 世界が回るような気持ち悪さに襲われ、前によろけてしまう


「…!?うわぁぁっ来るな!!!!!」


 狂乱した兵士の槍が俺を襲う


「!?!………………?いてっいててて」


 なんだ?まるでおもちゃで突かれているような痛みしか感じない。


「ひぃっこの化け物がぁぁぁあ!!……」


 ひどいな、あまり痛くないと言っても流石に鬱陶しい。


「もうやめてくださいってば!!!」


 兵士の懐へ潜り両手で胸を押すと


 ベギョァ


 嫌な音がして兵士が吹き飛んだ


「えっ」


 壁に叩きつけられた兵士の身体は、色んなところが曲がってはいけない方向に曲がっている。


「ぐ…、ぁ」


 ピクピクと動いたあとそのまま動かなくなり目から命の光が消える。


「えっ……嘘…えっ…死んだ?なんで?俺が?えっ??」


 オレガコロシタ?


 うそだうそだうそだうそだ


 頭が真っ白になる


 ガシャガシャガシャ

 先程の兵士が走っていった方から鎧がぶつかる音が聞こえる。かなりの数だ


「くそっどうなってるんだ!!………っぅ」


 とりあえず逃げなくては…


 なるべく音のしない方に走る


 頭が回るような気持ち悪さ


 なんでだ?あれから何も口にしていないはずなのに体調が悪化していく


 吐き気もでてきた


「だから飲んでおいたほうが良いと言ったでしょう?」


 背後に現れたのはやはりあの茶髪メイドだった。しかしその姿はいつものメイド姿ではなく、見事にしつらえられた軽鎧と剣を携えた女騎士の姿だった。きっとこれが彼女の本来の姿なのだろう。今回はもう手加減はしないということか…


「くそったれ…………!」


 俺は全速力で走る。あの化け物のような女を引き離せるかはわからないが俺にできることはそれしかなかった。


 不思議なことに追いかけてくる様子はない。


 なるべく、なるべく人がいない方だ。


 あの兵士の最期の顔が頭から離れない。


 人の死ぬところ初めて見た。


 もうどうにもならないと悟ってしまった。


 殺してしまったのは俺だ。


 もう誰も………殺したくない…

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