負けヒロインも異世界では絶世のメインヒロインになれちゃいます

棚狭 鯖缶

プロローグ

「ごめん、俺…やっぱりあいつのことが好きなんだ。狂おしいほどに、大好きなんだ。」

「………」

「だから、美香と付き合うことは…できないよ」


空いっぱいに星々が煌めく丘の上で、そう私に告げる彼。そんな彼がいつになく格好よく、そして星々の如く輝いているように見えた。


「……そっかぁ、そうなんだ。やっぱりあの子のことが大好きなんだね。」


そう言って、私は彼に背を向ける。今の私の顔を見られてしまっては、彼はきっと私に気を遣ってくれるだろう。でも、そんなことされたら私は、彼を諦められなくなってしまう。だから―――


「いいよ、わかった。私は、あなたから手を引こうと思いますっ。」

「………」


彼は黙ったままだった。しかし私は続ける。


「でも…。でも、その代わりにね?―――」


私は彼の方を向く。精一杯の笑顔を作って告げる。


「―――私を、私の存在を忘れてね。」

「え、それってどういう―――」


彼の言葉を聞き終える前に私は、駆け出してしまった。ああ、情けない。振られてしまったことが悲しくて、恥ずかしくて、彼の顔を見ると辛くて、逃げ出したのだ。


わかってる。私が、『負けヒロイン』、だなんてことは。彼との間には、絶対に越えることのできない一線があるのだということも。

だけど私は、彼の優しさに甘えて、近づいて、そして恋をしてしまった。勝てるはずなんて、ないのに。当然ながら、私は負けた。しかし私は受け止めきれずにこうして逃げ出した。私、最低な女だ。あの子に合わせる顔がない。


私は、公園で1人、寂しくブランコを漕ぐ。赤く腫れた目に、夜風が当たってむず痒い。

どうして彼を好きになったのか。それは私には分からない。もしかすると、ただ、恋をしたから。そんなちっぽけな理由だったのかもしれないけれど。


「美香っ!!」


聴き覚えのある声に、顔を向ける。するとそこには、先程私を振ってきた男子、『主人公』が息を切らしながら、私のところに駆け寄ろうとする。


「な…ん、で」

「さっきの話の続きを、させて欲しいっ!」


そう叫ぶ彼。私は困惑して、その場から動けなかった。


「美香が、さっき言ってたことだけどさ、俺は美香の恋人になることはできない。だけど、もし、良かったらさ。ホント、俺さいてーだなってわかってるんだけどさ。俺、美香と友だちになりたいんだ!」

「え?」

「一緒に遊んだり、駄弁ったりもできる、そんな友だちがいると学校が楽しいと思うんだ!だから、さ。美香さえ良ければ、俺と友だちになってよ」


彼はまっすぐこちらを見て請願する。

彼は、小っ恥ずかしいだろうに、目を瞑って頬を赤らめて、私に言ってくれた。そんな彼の優しさに、私は…


「そういうの、あの子とすれば良いじゃん。」


私は、それを突き放した。


「…!?」

「私言ったよね、忘れてって」

「い、いやでも!」

「こっぴどく振っておいて、友だちになってくれ、だあ?それって、学校でも彼女といちゃつきたいから、女子である私と友だちになれば、人の目をあんまし気にすることなくいちゃいちゃできるからなんじゃないの?」

「………」


彼は質問に答えない。その彼の反応に、期待を裏切られたような気分になる。あーあ、ここで否定してほしかったなあ。


「ごめん、私帰るから」

「ちょ、まっ!」


彼は必死になって私を引き止めようとする。だが、私はそんな声にはもう振り向かない。

悪いのは、全部私が悪いんだ。『負けヒロイン』のくせに、目立とうとしたから。そして、私が………


生き別れの、姉だってことも。


そして、メインヒロインに勝てるかもしれないと、思ってしまった。そう………


彼が一緒に暮らす、妹。つまり、に。


ああ、恋をするのは楽しかった。たくさんドキドキして、いっぱいときめいた。でも私は『負けヒロイン』だから。この世界では、きっと結ばれない運命そのものが、私の人生を作り出したのかもしれない。

そう考えているうちに、少し冷静になることができた。


「…かっ!美香っ!」


そう叫ぶ彼の声がようやく聴こえるようになった。しかしそれはもう遅かったようで、私の視界いっぱいに光が満ち溢れ、そしてそれはまるで鉄の塊にぶつかったような衝撃と共に、一瞬で終えた。


そして、目を覚ますと…、目の前にあったのは、


「あら、おはよう。クレア」


………優しい眼差しで私を抱いて見守る、美しい金色の髪をした、母親のような人の姿であった。

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負けヒロインも異世界では絶世のメインヒロインになれちゃいます 棚狭 鯖缶 @tanase-subsukee

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