第11話 対スライム その5
「吐けっ!アレクシィを吐き出せっ!!」
レインズの怒号が響く。
その瞬間、また目の前が真っ白になり、
ーッドンッ!ー
轟音が鳴り響き、激しい衝撃に吹き飛ばされる。
が、先程の巨大スライムの放った水の塊への落雷より衝撃が小さかったのか、遠くまで飛ばされることはなかった。
「ま、また落雷っ?!もう霧もないのにっ?!
いや、そもそも霧が濃いから雷って…?」
先程の雷といい、あまりにも不自然…レインズは一瞬黙考するが、すぐに頭を切り替える。
不自然だろうとなんだろうと、今はそんな事はどうでもいいっ!
巨大スライムに雷が落ちたが、中にはアレクシィがいるんだっ!
「アレクシィっ!」
レインズが巨大スライムを見ると、巨大スライムの中で力なくグッタリしていたアレクシィが、バタバタともがいてた。
恐らく、落雷による電気ショックのようなものだろう。
ショックで気を取り直したのか、止まった心臓が動き出したのか…。
ただ、その目には光が戻り、彼女は動いているっ!
だが、空気が無い事は変わりない。
「早く助けないとっ!だが、どうやって…。」
魔法はもう出せないし、意味がない。
苦し紛れの斬撃も意味はない。
「やはり核を攻撃しないと…。」
レインズはもがくアレクシィから視線をずらし、巨大スライムの核を探す。
「あっ!」
レインズは思わず声を上げる。
『わ、わたしっ!今、意識がっ?!』
雷のショックで再び意識を取り戻したアレクシィ。
『ここは天国…じゃないみたいねっ。』
死んだか…とも思ったが、まだスライムの中にいる事で、状況を理解する。
『どれ位気を失っていたの?
そうだ、坊ちゃまは…っ!?』
アレクシィは慌てて辺りを見回し、眼下にレインズの姿を見つける。
『坊ちゃまっ!ご無事でっ!…ん?』
レインズは、上を指して必死にアピールする。
『え?上?』
アレクシィもレインズの表情から意図を汲み、頭上を仰ぎ見る。
『!』
アレクシィが目を見開く。
スライム討伐に一筋の光明が差した。
アレクシィの頭上、足を蹴り、手を伸ばせば届きそうな距離に、巨大スライムの弱点、赤く大きな[核]が漂っているっ!
『こ、この核を掴んで、動きを抑えれば…っ!』
アレクシィは残る力で必死にスライムの体内を蹴上がる。
「いけっ!アレクシィっ!!」
レインズは剣の柄を握り締め、聞こえはしないだろうが、大声でアレクシィを鼓舞する。
『もうちょっと…っ、もうちょっとでっ!』
アレクシィは足の痛みを噛み殺し、必死でバタつかせ、核目指して手を伸ばす。
あと少し、もう少しで核に手が触れるー。
ーすぃっ…ー
『!』
刹那、核が更に上へとスライムの体内を登っていく。
『気付かれたっ?!』
アレクシィの絶望する。
『希望を持たせては刈り取っていく…。
このスライムは…私をバカにして笑ってるの…?』
アレクシィの心は、今にも折れそうだ。
『も、もう…意識が…っ。』
必死でスライムの体内を泳ぎ昇り、核へと手を伸ばすアレクシィ。
だが、痛みと息苦しさで、その視界はまたもや霞みだす。
『坊ちゃん…最後に一目だけでも…御姿を…。』
ちらり、と眼下のレインズに目をやる。
そこには、剣を構え、自分を見つめるレインズの姿があった。
聞こえはしないが、何やら大声を張り上げているようだ。
恐らく、自分を応援しているのだろう。
『坊ちゃんはまだ諦めてないっ!私を信じてくれているっ!
諦めちゃダメだっ!』
レインズに鼓舞され、アレクシィの瞳に光が戻る。
自分を信じる主のため、彼女は思い切り足を蹴り伸ばした。
『うわあぁぁぁぁっっっ!!!』
心の中で叫びながら、痛む足で最後の一蹴りっ。
アレクシィの体は今までより高く昇り、
ーガシッ!ー
千切れんばかりに伸ばした両手に、核の硬い感触がっ!
『と、届いたっ!』
ー!!!!!!!!!!!ー
核を掴まれた巨大スライムが、巨体を大きく震わせ暴れる。
『きゃああぁぁぁっっ??!!』
巨大スライムの体内は渦巻き、アレクシィの体は木の葉のように舞い踊る。
核から手を離させるつもりのようだ。
『あ、あとはこの核を持ったまま、坊ちゃまの攻撃圏内まで…っ!』
だが、
『あ…ダメだ…もう…。』
核を掴んだ事で張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、アレクシィの意識が薄れ始める。
巨大スライムの中でその身を翻弄されるアレクシィ。
それでも、核を掴む両手の力だけは緩めない。
『死んでも…絶対…核は…離さない…死んでも…絶対…核は…。』
消えゆく意識の中、アレクシィは呪文のように繰り返す。
巨大スライムは体内を激しく撹拌し、アレクシィの体を翻弄する。
アレクシィの体が巨大スライムの体内を上から下へ急降下ー。
その一瞬を、レインズは見逃さなかった。
ーキィィ―ンッ!ー
耳をつんざく様な金属。
急降下して来た核を、レインズの剣が刺し貫いた!
「でかしたっアレクシィっ!」
つづく
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