第10話 対スライム その4

「坊ちゃまぁぁぁっっっ!!!」

アレクシィの悲痛な声が辺りに響く。


ードォォンッ!!ー

「っ!!」

巨大スライムの放つ水の塊を零距離で受けたレインズは、吹き飛ばされ、大木に叩き付けられる。

全身に激痛が走り、声も出ない。その衝撃は大木に入ったヒビが物語っている。


『ダ…ダメだ…。勝てない…。』

核を火魔法で上手く誘導出来てるつもりだったのに、それは巨大スライムの誘いだったとは…。

スライムにそんな知恵があるなんて…否、このスライムが初手で周囲を霧に包んだ時点で想定すべきだった…。

今更悔いても遅いがー…。

レインズの霞む視界に、巨大スライムが近づいてくるのが見えた。

『せめて…俺を吸収した後…立ち去ってくれればアレクシィだけは…。』


ーガンッ!ガンッ!ガンッ!ー

突然、木を叩く、大きな音が響く。

「間抜けなデカスライムぅーっ!!こっちだぁーっ!!!」

「!」

レインズは痛む体をねじり声の方を見ると、大木に寄りかかって立つアレクシィが、松明で木を叩きながら大声でスライムを挑発している。


「あのバカっ!なんでー…っ」

言いかけて、止める。

なんでもクソもない、アレクシィはレインズを助けようとしているのだ。

アレクシィー自身もケガをして満足に動けないハズなのに、囮になって必死に自分を助けようとしてくれている…。


「くそっ!ここでアイツ一人守れなくて…何が王国の盾だ…っ!」

レインズは剣の柄を強く握り直し、地面に突き刺し体を起こす。

「このクラゲ野郎っ!お前の相手はこっちだ!」

レインズもアレクシィに負けじと巨大スライムを挑発するが、

既に巨大スライムはアレクシィへと、その巨体を揺らしながら進んでいる。


ーガンッ!ガンッ!ー

「こ、このスライムめっ!そうだっ、こ、こっちへ来いっ!!」

アレクシィーは痛みと恐怖で震える足で、寄りかかる大木を松明で叩き続け、巨大スライムを挑発し続ける。

そして、ついに巨大スライムはアレクシィまで2m程の距離まで近づく。

「はは…。お前なんか、怖くないんだから…。」

ガクガクと震える彼女の股を伝い、液体が滴り落ちる。

突然、巨大スライムの体が津波のように盛り上がる。


「坊ちゃん…。」

巨大スライムは、アレクシィを頭からあっと言う間に飲み込み、その液体状の体内へ取り込んでしまった。


「アレクシィィィィっっ!!!」

透明な巨大スライムの体内は透けているため、取り込まれたアレクシィーは水中で溺れたように、手足をバタつかせ、ボコボコと息を吐き、もがき苦しむ様が見える。


「貴様っ!このっ!アレクシィを返せっ!吐き出せぇっ!」

レインズは足を引きずり、よろけながら、巨大スライムの、アレクシィの元へ向かう。


「アレクシィ…、今っ、出してやるぞっー…っ!」

レインズは巨大スライムの元にたどり着くと、アレクシィに当らないよう、剣を振った。

「うぉぉ…うおおぉぉぉぉっっ!!」

袈裟斬り。

薙ぎ斬り。

切り上げ

刺突ー…。

型も防御も関係なく、声を張り上げ、何度も何度も剣を振り、巨大スライムに斬り付けた。


だが、やはり巨大スライムに斬撃は意味をなさず、レインズの必死の斬撃をあざ笑うように、巨大スライムはユラユラと揺れている。

そして、その体内に捕らえられたアレクシィの口から、

ーボコッー…ー

一際大きな水泡が吐き出されると、彼女の綺麗な瞳は光をなくし、その体は力無く巨大スライムの中を、美しい水中花のように漂い始めた。


「…アレクシィ…?おいっ!アレクシィっ!しっかりしろっ!

おいっ!こらっ!吐き出せっ!アレクシィを吐き出せよっ!」

大魔森林に、レインズの怒号が響いたー。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る