第4話 夢(記憶)

『ねぇ、退屈だからあっちに行ってみない?』

少女が自分の手を引き、走り出す。

談笑する大人たちの間を擦り抜け、

煌びやかなパーティー会場を抜け出し、

子供2人で夜の王城を探検したー。


引かれて走る自分の手の小ささに、記憶がよみがえる。

これは幼かったあの日の夢だー。

幼い頃からずっと、忘れた頃に見る、不思議な夢。

よほど忘れてはいけないのか、それとも忘れたくないのか…。


あの日はたしか、魔王国との協定が結ばれた日の祝賀パーティー。

国中から貴族が集められ、ウィンパルト家の嫡男だった自分も、両親と姉の4人で参加した。

一通りの挨拶も終わり、パーティーに退屈していると、

同じように壁の花になっていた女の子に話しかけられた。

赤と黒のドレスがよく似合う、可愛い娘だった。


話の内容は忘れてしまったが、彼女との会話は楽しかった。

自分の知らない話を聞き、彼女の知らない話をたくさんした…と思う。

そして、彼女に手を引かれ、王城の庭園、バラの咲き誇るよく手入れされた庭園を探検した。

その庭園の中央、噴水の前で、何か約束を…。


『大きくなったら、結婚しようねっ!』


幼子の戯れ、幼稚な約束ー。

そうだ、幼かったあの日、自分はあの少女と結婚の約束をしたんだ。

自分を連れ出し、結婚の約束をした、あの少女の顔を思い出そうとするが、

顔はいつも思い出せない。

あれは一体誰だったのか…。

幼い日の元婚約者、ナルコシアだったのか…?


ーチチ、チチチ、チチー

小鳥のさえずりで目が覚める。

木漏れ日が差し込む大きな窓。

その窓辺には愛用のロッキングチェアが、

少し開いた窓から入る風でわずかに揺れている。

いつもののどかな、優しく温かい風景。


「また、あの夢か…。」

天井に向かい、レインズは呟く。

そう言えば、彼女の夢を見る前にも、夢を見た気がする。

あの懐かしく幸せな夢とは違う、まるで正反対の悪夢ー。


『あれ?ここは…どこだ?』

天井がいつもの見慣れた天井じゃないことに気付く。

寝起きのせいか視界も何だかおかしいし、

随分、長く寝ていた気がするし…。

レインズは急に不安に襲われる。


「んんっ。」

うなされたのか、ひどく喉が渇いている。

いつも枕元には水差しが置かれている。

メイドのアレクシィが用意してくれるのだ。


『とりあえず、水を飲んで落ち着こう。』

水差しを取るためにベッドに左手を突き、起き上がろうとー。

瞬間、体が半回転してベッドに転がる。


「あれ?」

不思議に思い、体を支えられなかった左手に視線を向ける。


「っ!」


レインズは思わず息をのむ。

そこには、あるはずの左手が、肘から先がなかった。


「あれは…夢じゃなかったのかー…。」

レインズは呆然と、失った左腕を眺めていたー。


つづく

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