第2話 レインズという男

小高い丘の上に建つ大きな屋敷。木漏れ日が差し込む大きな窓。

窓辺のロッキングチェアに揺られながら、

穏やかな日差しにまどろむ男ー。


彼の名はレインズ。

世界3大国の一つ、[マルワール王国]のウィンパルト伯爵家の長男として生まれ、

この春に15歳になったばかり。

幼い頃より眉目秀麗、頭脳明晰と領地で評判となっていた。


だが、今の彼にその面影はない。

数か月前、爆発事故に巻き込まれたのだ。

その事故で、女性を思わせるほど整ったその顔には、

左側、眉から頬にかけて大きな傷跡が走り、

その傷のため左目は光を失っている。

また、瓦礫の下敷きになった左腕は、

肘から下が切断され隻腕となっている。


レインズの名が国中、否、世界中に轟いたのは彼が13歳の時。

かつて龍族が治めていた島、[旧聖龍王国]を巡り、

同じく世界3大国の一つ、[エメルヒス帝国]との間で起こった戦い、

[廃都 ドラゴニウム攻防戦]だ。


齢13で病弱な父の名代として参戦し、

手勢の300人で帝国兵4000人と対し、

味方を鼓舞し続け、援軍が来るまでの10日間を持ちこたえた。

また、その攻防戦の最中、王国軍本陣は一時的に帝国軍に包囲されてしまう。

しかし彼は、王国本陣を取り囲む敵陣を単騎で駆け抜け、国王を救出している。

その活躍は戦場の英雄譚として語られ、[王国の盾にして剣]と称された。


ー戦場において敵陣に単騎掛けでもって王を助け出すー

その英雄的武勲に対し、王は戦後王城にて戦勝の祝賀会を開き、

その宴席で彼の武功を褒め称え、一躍貴族達の間で話題の少年となる。

またその武功に似合わぬ女性を思わせる端正な顔立ちに、国中の女性が夢中となり、

吟遊詩人たちはこぞって彼の英雄譚を歌い、彼の評判は国中、国外へと広まった。


彼に夢中になった女性の中に、ある女性がいた。

マルワール王国第二王女[ナルコシア]だ。

彼女もレインズ同様、その美貌を讃えられた女性だった。

戦勝の祝賀会でレインズを見初めた彼女は、

父王にせがみ、彼と婚約を結ぶ。

伯爵家と王家という家格差に始めは難色を示していた王も、

可愛い娘の度重なる頼みに折れた格好だ。

国民や貴族達は当代の英雄と美しい王女の婚約を、心から祝福した。


王都の民に向け、王城のバルコニーで婚約を発表した二人。

仲睦まじく並び見つめ合う若く美しい二人の姿に、

国民も貴族も皆、王国の明るい未来を想像し、

レインズもまた、前途洋々たる自身の人生を喜んでいた。


だが、その幸せは長くは続かなかった。


男児に恵まれなかった王家では、第一王女[ルーシア]が婿を取り、

女王位に就くと思われていた。

しかし、マルワール王国の属国の一つに、叛乱の兆しありとの報告がなされ、

ルーシアはその国に輿入れする事となった。

結果、妹のナルコシアが次期女王、婚約者のレインズは王配となる事となった。

伯爵子息が王配となるー。

その事を良しとしなかった他の貴族達の不満が鬱積し、

ついには、あの事故が起こってしまったー。


つづく

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