第一章 隻眼隻腕の伯爵子息 レインズ・ウィンパルト

第1話 レインズ、婚約を破棄される

「ウィンパルト伯爵家が嫡子レインズよ、

我が娘、王女ナルコシアとそなたとの婚約を破棄するっ!」

広く立派な玉座の間に、王の声が響き渡る。

集まった貴族達の顔には、嘲笑の笑みが浮かぶ。


「そ、そんなっ!陛下っ!お待ちくださいっ!」

レインズと呼ばれた隻眼隻腕の男の横で頭を垂れていた、

ウィンパルト家の名代である義兄の[アルソン]が思わず立ち上がろうとする。

が、レインズは彼の腕を掴んで制止する。


「レインズ…。」

レインズは彼の腕を掴んだまま黙って首を振る。

「…王の御心のままに。」

深々と頭を下げるレインズを見て、

「くっ!」

立ち上がりかけたアルソンも再び膝を折り、頭を下げる。


「…ふん。わかったらさっさと城を出て行け。

二度とその、おぞましい姿を余の前に出すでないぞっ!」

「はっ…。それでは失礼いたします。」

侮蔑の視線を向ける王の顔を見ようともせず、

レインズは再度頭を下げた後、立ち上がる。


「おっと。」

片腕が無くなったレインズはバランスを崩し、

隣のアルソンに寄りかかろうとするが、

まだ片目に慣れていないため距離感がわからず、

アルソンの肩を掴み損ねてしまい、床に這いつくばる形で倒れ込む。


玉座の間の貴族達は、クスクス笑う者、汚らわしいモノを見るような視線を向ける者、様々だ。

だが、誰一人、彼に同情的な者はいなかった。


「レインズっ!」

アルソンは慌ててレインズを引き起こす。

「すまない、義兄さん。ちょっとバランスが…。」

「…行くぞ。肩を貸そう。」

立ち上がることすら上手く出来ない自分に自嘲しながら礼を言うレインズに、

今度はアルソンが黙って首を振る。

レインズは彼の肩を借りると、玉座の間を後にした。


王城を去る際、王城の正門を通ることを許されなかったレインズ達は、

王城の粗末な通用門を通される。


「なんたる屈辱か…っ。」

レインズに肩を貸しながらアルソンが憤る。

通用門を出たレインズは、もう訪れる事は無いであろう、

背後にそびえる王城を振り返る。

いくつもの尖塔を持つ巨大な王城は、

夕日が逆光になり、角だらけの巨大な魔物のように見える。


そのいくつもの尖塔で一際目立つ、一番高い尖塔。

あそこには俺の今しがた”元”になったかつての婚約者、

第2王女ナルコシアの部屋がある。

レインズはその尖塔の窓を眺める。

そこに、部屋の主の姿はない。


「見送りもなしかっ。

薄情なもんだな、お前の婚約者様はっ。」

アルソンが吐き捨てる様に呟く。

「元、だよ、義兄さん。

それに、仕方ないさ…。」

レインズは腕の通っていない、ヒラヒラした上着の袖を掴む。


「片腕がなんだっ!お前がどれほどこの国に貢献したと思ってるっ!

その功績は、片手じゃ数えられないんだぞっ!」

「ぷっ。」

アルソンは激昂しているが、

レインズは思わず吹き出す。


「義兄さん、それは片腕と片手を掛けた冗談なのかい?」

「~~~~っ///」

アルソンの顔がみるみる赤くなる。

「義兄さん、顔が真っ赤だよ?」

「こ、これは夕日のせいだっ!」

アルソンはそっぽを向いてしまう。

レインズにからかわれ、ヘソを曲げてしまったようだ。


「ごめんよ、義兄さん。」

レインズは笑いを噛み殺し、アルソンに謝る。

「…馬車までもう少しだ、頑張れ。」

手入れもされていない荒れた小道に、夕日に照らされた二人の影が伸びるー。


つづく

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