閑話 ある頑丈な刀の話 三

 最近、ハモンの様子が可笑おかしい。

 さやから出られない時間が長い。

 今までは日の中で必ず抜刀ばっとうされ刀身にハモンの視線を感じたものだ。

 だがある時から抜かれなくなった。


 鞘から解放して欲しい。

 自身を見て欲しい。

 自分を使って欲しい。


 彼の役に立ちたい。

 彼が必要とするやいばでありたい。


 ただ、彼の存在を感じないかと言われれば違う。

 より長くつかに彼の手を感じる。

 子猫から成長した事でかまい方を変えられ不満をらす愛玩あいがん動物の気分だ。


 そして、ハモンの手の感触の変化も感じ取れた。


 誰かの体温がこびり付いている。

 やわらかく、あたたかい、童女どうじょの手の感触だ。

 罅抜ひびぬきとして冷たい刃に成る前の、自分と同じ年頃としごろの娘の感触だ。


……私の兄様あにさま、私のにな、私のいとしいひと


 誰だか知らないがハモンに悪い虫が付いた。

 自分の知る女ではない。

 知らない温かさだ。

 国の居た彼に近付きそうな女はおぼえている。

 彼に関わる事を肉体が刀に変わった程度で忘れはしない。


 れた瞬間に殺す。


……早くさわれ。さやの上からでも確実に身も心も殺してやる。


 罅抜ひびぬきは刀に成って初めて――

 いや、この世に生を受けて初めてハモン以外に触れて欲しいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る