閑話 ある絡繰り箱の話

 帝都北方の防衛都市から遠く離れた山の地下。

 採掘場さいくつじょうのように迷路を作る洞窟どうくつの最奥はの無い不自然に白い壁で補強ほきょうされていた。

 人がったと思われる洞窟にもかかわらず道を知らぬ者では辿たどく事すら不可能な程に特定の通路を進む必要があるのがこの白い通路だった。


 純白の通路の奥、現代技術とは思えない継ぎ目の無い絡繰からくりが乱立している。


 ここはハモンがイチヨに理法りほうの説明をする際に話した、彼が唯一知る遺跡だった。


 そんな施設の最奥に、透明な壁で区切られた部屋が在る。

 壁の奥には人が寝る様な、座る様な不思議な台が複数置かれている。台には手首と足首を固定する様な鉄の輪が有り、この台が人を拘束こうそくする為の物だと分かる。


 壁の反対側には、そんな椅子の様な台を観察する位置に複数の椅子や絡繰からくりが置かれていた。

 その内の一つが火も無く光っている。硝子玉がらすだまの様な材質の絡繰りは発光しながらも占い師がもちいる水晶玉の様に文字を浮かび上がらせている。


『亜人個体名カズハ、並びに娘ユズハの体内ナノマシンを抽出ちゅうしゅつ。ナノマシンの摘出てきしゅつにより両名の肉体の焼失しょうしつを確認。両個体が生前に獲得したナノマシン経験値の一致率97%。個体名ハモンの電磁特性の影響と思われる。一致率95%をオーバー。同一体へ二名分のナノマシン移植いしょくによる性能向上の取得条件を達成たっせい


 文字はハモンやイチヨが使う物とは異なっている。

 絡繰からくりの周囲には複数の白装束しろしょうぞく死骸しがいが転がっていた。全員が刀らしき刃物による致命傷ちめいしょうを受けており、この場で誰かに斬り殺された事が分かる。


『ナノマシンは付喪神つくもがみの器である流体金属刀に移植を実行。摘出てきしゅつしたナノマシンより個体名ハモンの道具に成りたい、彼以外の接触をこばむという方向性を検知。刀身にもちいられる流体金属はナノマシンにより操作される。二名分のナノマシンにより刀身は単分子に近い硬度とウォーターカッターに近い切断力を獲得。ひびが入るという事象を刀身が受け付けない刀。ゆえめい罅抜ひびぬきとする。また個体名ハモン以外のナノマシン保有生命体が罅抜ひびぬきに触れた際には刀身に含まれるナノマシンが保持者の精神を汚染おせんする為に対象のナノマシンに向けてハッキングを行う。二名分のナノマシン出力を保有する罅抜ひびぬきからのハッキングに対抗する為には電子戦専門の調整が必要となる』


 明らかに現代の科学水準を逸脱いつだつした施設は、現代人よりも非常に高度な文明を持つ者が地上を支配していた事の証左しょうさでもある。


『他個体に影響する電磁特性を保有する亜人、個体名ハモンを発見。亜人観察法にのっとり地球への報告を人工衛星『機月きげつ』へ申請しんせい受理じゅり。機月より地球へ長距離通信。失敗。通信電波の妨害ぼうがい、受信機の喪失そうしつが想定される。本レポートは記憶媒体きおくばいたいへ保管し地球への物資輸送時に同封する。次回の輸送日程は未定。なお、前回輸送日時は記録限界日数よりも前であり正確な日時は不明』


 文書にはまだ続きが有る様だったが絡繰からくりの大きさからここまでしか読めない。

 その絡繰りに倒れる白装束の死体はハモンが父とあおぐ男だった。

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