閑話 ある頑丈な刀の話 二

 ゆずれない物は誰にでも有る。


 朝食は米と味噌汁。

 風呂ふろは熱ければ熱いほど良い。

 卵焼きの味付けは出汁だし必須。


 罅抜ひびぬきにとっては譲れないのは、にながハモンである事だ。

 彼以外の手にわたる事は認めないし、つかれる事も許さない。

 折角せっかくハモンが他人に整備を任せない為に刃毀はこぼれが起きない刀身を得たのだ。ならば能力を遺憾いかんなく発揮はっきし彼だけの道具でりたい。


 にもかかわらず、知らぬ人間が柄に触れている。


 ハモンが成長して手の形が変わった、等という変化ではない。

 例え十年経とうが彼を間違う事は無い。

 肉体の変化程度で彼を間違う筈も無い。


 体が弱れば心が弱る。心が弱れば体が弱る。

 顔も思い出せない程度には興味の無い男が言っていた言葉を思い出して実行する。


 気色悪きしょくわる持主もちぬしの体温を奪い、精神をゆがめて本人の自我じがを破壊していく。


……ああ、兄様あにさま。兄様はけがれた手に身を預けた私をお許し下さるでしょうか?


 くるうた程度でにぶる剣など言語道断ごんごどうだん


 母を喰い殺してでも勝ち取った兄の持ち物というこの聖域、誰にもおかさせはしないと罅抜ひびぬきは決意を新たにする。


 一刻も早くハモンの手に戻る。

 その為に罅抜ひびぬきけがらわしい持主の意識をハモンへ向けさせた。

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