閑話 十士将から都市防衛体長へ

 厳ついかぶとたまわ十士将じゅうししょうガレアは去って行くハモンを見て、内心では好感をいだいていた。

 若い白革羽織の少年の目には少しの嘘がじっており、それは自分をだまし切る事が出来ない素直さだとガレアは考える。最後に人としての礼節れいせつを破った事を認める気は無いが若さと許せる範囲だろう。


 いくら思い出してもあれ程の業物わざものめいが無いとは信じがたい。だがつかに隠れたなかごに銘が切られていないという言葉に嘘は感じなかった。

 ゆえ有って銘が切られる前に白革羽織が持ち出す事に成ったのだと想像するしかない。


「して、資材は守れたのだな」

「はっ。軍人、傭兵による巡回じゅんかい班の活躍により賊の頭目とうもくたし有象無象うぞうむぞう壊走かいそうに追い込んでおります」


 防衛都市へ運ばれる資材を守り、都市を守る大門は閉じた夕刻。

 ガレアが賊討伐を報告するのは帝都におわす皇帝より防衛都市を任された貴族ゲンスキーだ。

 普段は防衛都市を維持いじする為に統治とうちに力をそそいでいるが本来はこのむ。


 その為、大規模な賊出現のほうを受けると最前線に出る悪癖あくへきが有る。しかも筋肉で膨張ぼうちょうした体躯たいくに合わせるのが難しい為に軽鎧けいよろいでだ。

 防衛都市一番の職人がきたえた長槍ちょうそうを振るうので攻め手について心配は無いが守りについては部下の心労しんろうを理解して欲しい。


「気に成る者は居たか?」

「……白革羽織の少年剣士を見ました」

「ほう?」

「想像をぜっする業物わざものを振るっておりました。二度見る限り同じ刀で少なくとも野犬六、賊三の肉を両断しております」

「両断だと? 肉をくではなく、両断だと!? 刃毀はこぼれは? 血肉ちにくはどうした?」

「血肉は振り払っておりました。ですが刃毀れは起きていない様でした」


 ゲンスキーが口角こうかくを吊り上げた。

 これがハモンが避けたかった事態だと理解しガレアは歯噛はがみするしかなかった。

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