閑話 ある赤茶の少女の話

 村を出た。

 父と母が死んだ。村長が死んだ。友人が死んだ。

 笑顔の作り方が分からない。自分の感情が分からない。泣き方が分からない。


 ハモンは分からない事は教えてくれなかったが泣く事を受け止めてくれた。

 今でも父と母が殺された事に自分がどんな感情をいだいているか自覚できない。

 防衛都市に来てからもハモンに抱き締めながらでないと眠れない。ハモンに抱き締められていると涙が出てくる事が有り、泣き方も分からないのに泣く事ができる。


 彼に嫌われて捨てられない為にも彼に気に入られ続けたい。


 だから作り方が分からない笑顔を作ってみる。詩人の物語に出てくる、英雄が守りたくなる素直で明るい女の子をえんじてみる。

 そのたびに表情のとぼしいハモンの目に悲哀ひあいが浮かぶ。


 イチヨに悲哀を理解する事はできないが、ハモンの目を見ると彼が自分を捨てるという事は無いだろうと思ってしまう。

 イチヨが望めばいつまでも近くで守ってくれるだろうと思ってしまう。

 それが卑怯ひきょうな気がして、その卑怯さをハモンは好まない気がして、彼に気付かれない様に必死に隠す。


 無垢むくで何も知らない悲劇ひげきの少女。


 そんな姿を演じなければハモンに捨てられてしまう。

 父や母を失った時の様な孤独の恐怖に顔がゆがむ。


 お願いだから、早く買ってきて欲しい。

 ずっと隣に居て欲しい。


 でも我儘わがままを言えば嫌われるかもしれない。

 怖い。


 赤茶の少女は今日も自分の中の恐怖を笑顔で隠そうと必死だった。

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