第六幕 旅の中止
雪解けの時期らしく南下する街道は雪道でありながら地面や雑草が
背負う荷物の中には定食屋が最後に
最後まで世話になった店だ、旅の目的を果たした
そう思う程度には気に入った。
南に位置する帝都から北西と北東に分かれる道だ。イチヨたちの村は北東の分かれ道の先に位置している。
あと
太陽が南の頂点に達するまで
ついつい握り飯に向く意識を抑え付けハモンは分かれ道を南下するつもりで大葉の地図を
ただ分かれ道の直前で足を止める。
村やイチヨへの
思わず振り返れば商人らしき
ハモンが村に居る間に見た顔ではない。そもそも定食屋以外に宿は無いと聞いているので商人が宿泊していれば定食屋で顔を合わせていた
嫌な予感に
荒い呼吸で肩を上下させる商人に
「おい、お前は北の村から来たのか?」
「あ? ああ、そうだ。
「ちっ」
商人とそれ以上話している
ハモンは
「好きに使え」
ただの寝袋では商人にとって大した商売には成らないだろう。ただ少しでも体を軽くしたいハモンと少しでも損を
背後から困惑しつつも静止する声が聞こえ
ここまで徒歩で一刻を使った。商人が村に居たのがどれほど前か分からない。
ただ途中まで荷鳥ホァンに乗っていたのだとすれば
焦りながらも最短最速で北の村を目指し走るハモンは自分の足跡と商人が作った荷車の
荷車が作る痕は直線というには左右に荒く揺れており商人と荷鳥ホァンの焦りが
ハモンは自分が残す足跡も似た様な物だろうと
そんな風に自分を笑っている内に村が見えてきた。
溶け始めた雪に包まれた村。屋根から落ちる雪で遊ぶ子らに雪が直撃して泣き、助け合って笑い、親に
悲鳴が聞こえた。
記憶の棚の奥へ強引に詰め込んだ物が姿を現そうと棚を揺らしている。
そんな幻は頭を振って無理に見なかった事にする。
走りながら
村の入口が見えてくると商人の言っていた通り
数は見渡しただけでも十を超えている。
そんな伝説は夢物語だと理解しつつハモンに背を向けている山賊に突撃する。
雪を踏むブーツの足音で突撃は
それでも物心ついた頃から
異常を察知して振り返る山賊に切り掛かる。
飛び散る血肉が白革羽織を
人を斬ったのは初めてではないが、この感触に慣れる日が来るとはとても思えない。
慣れる必要も無し。
一人目の絶命を見届ける。
今も周囲から
今も数人の男たちが
一刻も早く山賊の数を減らす為、村の男と刃を交え隙だらけの山賊に切り掛かった。
真横から
男の安否を確認する間も惜しんで定食屋に走った。
途中で見た
怒りから歯を食いしばり、
その怒りに任せて背後から山賊の首を横に
目の前で人の首が斬り飛ばされるという光景に村娘が悲鳴を上げるが
戦闘の興奮と暴挙を目の当たりにした怒りから心臓が
定食屋は
走れば直ぐに着くと自分に言い聞かせながら定食屋に走り、ハモンに気付いた山賊に道を
遠距離攻撃を想定していなかった山賊の胸に着弾した火球は破裂し山賊の胸を半分ほど
それを見た他の山賊が叫ぶ。
「
「
その声に反応したのか定食屋から二人の山賊が飛び出して来た。
手にした斧には血が
最悪の想像をしていたハモンの前で、想像通りの結果が起きた。
急速に頭が冷えた様な感覚と共に
ただ、定食屋から出てきた山賊以外に焦点が合わなくなった。
幼い
周囲の山賊の顔に
理法使いという特殊な相手に人質は無意味と考えているのか、
奇妙な程に引き延ばされた感覚の中でそんな事を考えながらハモンは山賊の腹に右手だけで
刺突を防ぐ斧により軌道が逸れ
今、ハモンが見渡して認識できるのは七人。
肩を削られた痛みで動きの
残り、六人。
いくら理法が使えようと火球を放つには数泊の間を
囲まれて迫られれば満足な抵抗も許されずに切り殺されるだろう。
だから定食屋の壁を背にして左手を山賊たちに向けた。
「焼き殺す」
その
最初から山賊に強い
右肩を焼き壊された山賊を見て恐怖に耐えられなくなった最初の山賊が逃げ、残りの山賊たちも同様に逃げ出した。
まだ屋内に山賊が居るかもしれないが
「勝った! 俺たちの村は俺たちが守ったんだ!」
一人の村人が
元々五十人程度の村だ。十人近い武装した山賊に襲われれば壊滅する。
それでも勝利宣言に続く声が有れば
数少ない生き残りが勝利宣言に続いて声を上げていく。
そんな村人たちを尻目にハモンは定食屋に急ぐ。
念の為に
潜伏している山賊は
酷い血の匂いに満たされた店内、台所に近い客席に店主の死体が有った。
うつ伏せに倒れた死体は背後から叩き切られたらしく左肩に大きく鈍い切傷が走っている。傷の深さから心の
歩み寄って顔を見る為に体を引っ繰り返せば
静かに目を閉じさせ、
正面からの襲撃にも恐怖心が邪魔をして満足な抵抗ができなかったのだろう。殺された事で大の字に倒れたのか頭部付近の床には
昼食に向けて料理の途中だったのだろう。火事を防ぐ為にもかまどの火に水を掛けて消火した。
少しだけ
だがまだイチヨの姿を見ていない。下手に呼んで彼女が飛び出した時に山賊が潜伏していては危険に
胃液が逆流し
イチヨを傷付ける可能性を考慮し
最も階段に近い宿泊時に使わせて貰っていた客室の
今はそんな場合ではないと部屋に踏み込み押入れの襖を開けようとすると内側から勢い良く開いた。
山賊が潜伏していたかと
数日で見慣れたイチヨの頭が見える。
肩を震わせて泣く彼女に掛ける言葉が思い付かず背中を叩いてやる事しかできない。
少しの自己嫌悪を覚えつつ、ただ彼女の無事に
赤く成ってしまった白羽織を見て初めて斬った男を思い出す。
大きな手に、乱暴だが優しく頭を撫でられた記憶が
ハモンが初めて斬り殺したのは、父親だった。
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